5日と20日は歌詞と遊ぼう。

歌詞を読み、統計したりしています。

凡百の「好きだ」ソングとはまるでちがう変態構成スキだ曲 - 近藤夏子『リハーサル』

きょうは近藤夏子『リハーサル』という曲の話!

サビの歌詞見てくださいよー。こういう感じなんです。

スキだ スキだ スキだ

こういう曲めっちゃあるじゃん!!

って気持ちになるかもしれないのわかるよ、わかるんですけど、

この曲、凡百の「好きだ」ソングとはまるでちがう変態構成なのですよ。

きょうはその話。

近藤夏子『リハーサル』歌詞

先行事例の再検討

「好きだ」という表現は、だいたい
❶だれから
❷だれへ
の「好き」という観点で整理できます。

というわけで、先行事例を検討しましょう。

(凡百代表というわけではまったくありませんが)ここでAKB48大声ダイヤモンド』という曲の歌詞を見てみます。

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書き出しはこういう感じ。

走り出すバス 追いかけて
僕は君に
伝えたかった

主人公は「僕」で、ヒロインは「君」です。

サビはこういう感じ。「大好きだ」のリフレイン。

大好きだ 君が 大好きだ
僕は全力で走る
大好きだ ずっと 大好きだ
声の限り叫ぼう

だからこの曲の「好きだ」は、主人公からヒロインに向けての「好きだ」です。

セオリー通りの「好きだ」っていう感じ。

聴き手を戸惑わせるトリッキーな歌詞はよくないもんね〜〜〜。


男性の曲だとどうでしょうか。

FUNKY MONKEY BABYS『告白』。

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歌詞の冒頭を見ると主人公の「僕」が「君」に告白する、という建て付けだということがわかります。

君に伝えたいことがある
胸に抱えたこの想いを
うまく言葉にできないけど
どうか聞いて欲しい

サビを見てみるとこんな感じ。

大好きだ 大好きなんだ
それ以上の言葉を もっと上手に届けたいけど
どうしようもなく 溢れ出す想いを伝えると
やっぱ大好きしか出てこない

「僕」が「君」に伝える言葉が「大好きだ」なのだということがわかります。

やはりこちらもセオリー通り。


もう少しだけ新しい曲に当たってみます。

Little Glee Monster『好きだ。』はどうかな。

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サビの歌詞を引用します。

「キミ」が好きだ ホントに好きだ
言えないけど 好きなんだ
どうしたら伝わる? この胸のざわめき
どんな本にも 書いてないよ ぼくたちの幸福論は
ただ見ているだけ?それじゃ始まらないさ
だから 跳ぼう!

「キミ」がかぎかっこで括ってあるので、ただのヒロインというよりは、なにかを「キミ」になぞらえていそうな雰囲気。

とはいえこの曲の「好きだ」も「ぼく」から「キミ」への好きであることはたぶん揺らぎません。


というわけで、ここまで見た結果、サビで「好きだ」を連呼する感じの曲は「僕」が「君」に歌うやつが多いということがわかりました。(不適切な一般化)

提案手法の独自性

前置きがめちゃ長くなりましたが、近藤夏子『リハーサル』はぜんぜんちがうんですよ……。

冒頭のAメロ。

『本気でスキな人とはなかなか結ばれない』
君が言ったセリフに『うん。うん。』って頷く

「キミ」と「あたし」の会話のやり取りで曲は始まります。

気になるのはこの『二重かぎかっこ』なのですが、この話はまたあとでします。

Bメロで、このふたりの関係が明らかになります。

あたしの本気は君で 君の本気はあの子だね
『頑張ろなッ』って言われても
どうすればいいのよ 教えてよ
君振り向かす方法

つまり三角関係なのです。

前回の虹のコンキスタドール『トライアングル・ドリーマー』に続いて2曲連続の三角関係曲……*1

からのサビ。

スキだ スキだ スキだ

なるほど、逆境に負けない主人公の思いが言葉になってサビで連呼……

ではないのです。

スキだ スキだ スキだ 言って
あたしに向かって言ってみて
リハーサルだって思ったらいい

この「スキだ」の方向はちがいます。

「あたし」から「キミ」への方向ではありません。「キミ」から「あたし」への方向です。

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しかもこれ、反実仮想なんですよね…。

キスも腕枕もギュッも全部
あたしで試してみたらいいんじゃない??
そのまま本気になっちゃえばいいのに

サビの内容、ぜんぶ主人公の妄想です。

「リハーサルだって思ったらいい」とか、主人公は「キミ」に伝えたりしていません。空想しているだけです。

どうしてそれがわかるのか。

それは、「スキだ スキだ スキだ」の部分が『二重かぎかっこ』でくくられてないから!(伏線回収!!)

この曲のサビの部分はほぼ妄想です。だから地の文からは階がひとつちがいます。

それなら「かぎかっこ」でくくるとかしてわかるようにすればいいのにね。

でも、この歌詞ではそうなっていません。

だって、妄想を妄想とわかるようにしてしまったら、それは妄想のままで終わってしまうじゃん!

その代わり、もうひとつ階が異なる会話の部分が『二重かぎかっこ』でくくってあります。

二重があるなら一重は…??と妄想するわたしたちは、そのすき間に、(一度書いてから消してしまったのかもしれない)「一重のかぎかっこ」を読み取るのです。

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というわけで、近藤夏子『リハーサル』でした。

この曲、最後もめちゃくちゃよくて、

そのまま本気になっちゃえばいいのに
このまま本気になっちゃえばいいのに

って感じで終わるんですよね…。作詞うますぎかよ……。

10年近く前の曲だそうなので、10年近く前の曲を引き合いに出しながら考えてみました。

2010年代がもう終わるんだよな…イミわかんねぇよな……。

*1:関係ないけど、むかし自分が書いた文章を読んでいたら、選曲や読み解き方に当時の自分のメンタリティがありありと出ていてめちゃくちゃビビったんですよね…そこまでひねくれた読み解き方するのはだいぶムリあるんじゃないかなとか思いながら読み返しました…関係ないけど。