5日と20日は歌詞と遊ぼう。

歌詞を読み、統計したりしています。

田中は浦島太郎なのだ - でんぱ組.inc『Dear☆Stageへようこそ♡』

でんぱ組.incDear☆Stageへようこそ♡』の歌詞の話をしたくて来たんです。

この曲、でんぱ組.incというアイドルの曲なんですが、冒頭の2分以上は「田中」という男性の独白です。いや長くない…? みんなアイドルの声を聞きたいんじゃないの??

「俺はしがないサラリーマンだ。名前はまあ田中とでもしておこう。
唐突だが、世界はもう終わっちまってる。
人生の大半は辛い事で、たまに訪れる僅かな幸せのために
人は生きてるなんて言うけれど、ありゃ嘘だ。
その、たまの幸せさえ訪れない俺は、まさに生ける屍だろう。

(まだこの倍以上ある)

でもYouTubeの動画にはこんなコメントがあります。

この曲のファンの人気は 田中>>>>>>>>>>>でんぱ組.inc>ディアステメンバーって感じだよね

いやいやいやまさか…。

って思うじゃないですか。

この曲、冒頭を取り除いてしまうと、芯のないスカスカな曲に成り下がってしまいます。

俺たちが聴きてぇのは、ササミから抽出したたんぱく質みたいな曲じゃねぇんだよ!

きょうはこの曲の中で「田中」がどういう存在なのか、って話をしたくて来ました!

でんぱ組.inc『Dear☆Stageへようこそ♡』歌詞

公式で聴ける動画が副音声しかない…かなしい……。

ドラマは変化の中に現れるのだ!

ちょっと長いのですが、この曲の1連を改めて引用してみます。

「俺はしがないサラリーマンだ。名前はまあ田中とでもしておこう。
唐突だが、世界はもう終わっちまってる。
人生の大半は辛い事で、たまに訪れる僅かな幸せのために
人は生きてるなんて言うけれど、ありゃ嘘だ。
その、たまの幸せさえ訪れない俺は、まさに生ける屍だろう。
そう、この国は俺みたいなゾンビで溢れ返っている。
ミラ・ジョボヴィッチは現れない。世紀末だ。救いようがない。
そんなことを考えていると、一人の少女に話しかけられた。
彼女はアイドルをしているらしく、私のお店に来ないかと言って来た。
世紀末に何を能天気な、と思ったが、
まあたまにはこういう店も悪くないか、
と思い、俺は扉を開いた。」

ここまで全部語り。でんぱ組.incのメンバー出てきません。

最後の部分も確認しておきます。こういう感じ。

ありがとうございました! また来てね~ バイバ~イ
「バイバーイ…はあ~…そうか、世界はこれから始まるんだね…
The world begins now!」

最後は退店するところで曲が終わっています。

つまりこの曲、ざっくり要約するなら、「田中」がDear☆Stageへ行って、帰ってきた話、ということになります。

この曲、どうあってもまとめようとすると「田中が」、から始める以外むずかしい感じになってしまいます。

ということはですよ。

この曲の主人公は、でんぱ組.incのメンバーではありません。「田中」です。

だから、YouTubeのコメントにもあるように、「田中」に人気が出るのは道理なのです。主役だもん。

ところで主人公が異世界に行って帰ってくるといったら、日本に有名な物語があります。

浦島太郎です。

浦島太郎は、浜辺から竜宮城に行って、そしてまた元の世界に戻ってくる、という物語です。

Dear☆Stageへようこそ♡』は、「田中」が辛い世界からDear☆Stageへ行って、そしてまた元の世界に戻ってくる、という物語です。

同じじゃん!

ということで、この曲は「行きて帰りし物語」ということになります。

これ、物語論でたくさん研究されているはずのやつですね。掘り下げ甲斐がありそう…。

心の扉を壊していく(田中の)

ほとんどの「行きて帰りし物語」は単純に行って帰ってくるだけではなく、最初と最後の間にはたいてい大きな隔たりがあります。

浦島太郎では数百年の時が経ってしまうし、主人公が大きく成長して帰って来たり、その逆だったりします。

歌詞冒頭の「田中」の様子を見てみます。

いらっしゃいませ~! ご来場ありがとうございます!
初めてのお客様ですか?
「え? あ、あの、僕ここに来るのは初めてで、
> というか普段あまり冒険したりするようなタイプではなく、
> どちらかというと…」
ありがとうございます! 本日出演はこの6名になっております!
「ああ、そうですか…」
そろそろLiveの時間になります! どうぞごゆっくりお楽しみ下さい!
「あ、ありがとう…
いったい何が始まるんだろうか…なんだ…なんなんだ…」

独白のときには斜に構えた気障なセリフが目立った「田中」ですが、「少女」に話しかけられると急にしどろもどろになります。

つまんなそうじゃん? しんどそうな顔して 急にどうしちゃったの?
「大人には色々あるんだよ…」
分かった! 同じようなLoopの毎日に うんざりしちゃってるんでしょ?
「別にそういうわけじゃ…」
ここは天国かな? それとも地獄? わたし天使かな? それとも悪魔?
それは それは それは それは 君次第だよ
(YO!YO!YO!YO!Let's go!)

曲の中で「少女」に話しかけられた「田中」は、

「大人には色々あるんだよ…」

「別にそういうわけじゃ…」

と答えます。

見て、心の扉はがちがちに閉ざされています。

「田中」の中では世界はもう終わってしまっていて、そういう設定の世界の中で生きているからです。

「少女」はそれを察知して、

つまんなそうじゃん? しんどそうな顔して 急にどうしちゃったの?

分かった! 同じようなLoopの毎日に うんざりしちゃってるんでしょ?

と投げかけます。そして「田中」からの返答のたびに、予想が正しいことを確信するのです。

だから「少女」が歌うことは、この歌詞の中で一貫しています。

君がまだ知らない世界なんて 山ほどあるんだよ
(お・し・え・て・あ・げ・る) (Wow!)

悩みごと全部 ねえ 1回捨てて さあ!

君と (Ready go!) 遊び続けたいの (Here we go!)
明日も笑えるように (Let me go!)

地球上に 君が 笑える 場所が きっと あるのさ
Dear☆Stageへようこそ

「少女」の目的は凝り固まった「田中」の心の扉を壊すこと。

だからこの曲は「少女」目線ではつまらないのです。変化がないから。

この曲で変化するのは「田中」のほうなのです。

2番の掛け合いは、1番のときとはちがう趣があります。

思い描いていた自分のStoryと 実際違っちゃったんでしょ?
「まあ、そうかもな…」
頭でっかちになればなるほど 人生は損しちゃうのよ
「そんなもんかね…」

「田中」の返答は、

「まあ、そうかもな…」

「そんなもんかね…」

というようにちょっと軟化します。

ここまで来たらもう、あとは速度を上げて行くだけ!

待ってるから 待ってるから 願いごと全部 もう1回 祈ってみてよ

1番で悩みごとを捨てて、空っぽになった心の中に、今度は「願いごと」を注入しようとしています。

しかも少女はそれを「もう1回」と言います。

「田中」が一度は願いごとを祈ったことがあるんだって、「少女」は確信しているのです。

「田中」はDear☆Stageへ来て、思想を変えられたのではありません。

むかし持っていた気持ちを思い出したのです。

Cメロを終えて、「田中」はこんなふうに叫びます。

「君達はゾンビバスターズだ!」

「ゾンビ」というフレーズには聞き覚えがあります。

この曲の冒頭に、こんなフレーズがあったのです。

その、たまの幸せさえ訪れない俺は、まさに生ける屍だろう。
そう、この国は俺みたいなゾンビで溢れ返っている。

「ゾンビ」は「田中」自身だったのです。

でもゾンビだった「田中」は、退治されてしまったのですよ! こうして! Dear☆Stageで!!

ありがとうございました! また来てね~ バイバ~イ
「バイバーイ…はあ~…そうか、世界はこれから始まるんだね…
The world begins now!」

そうして退店するときの「田中」は、もう以前とはちがうひとなのです✨

思えばこの曲の最初にはこんなフレーズがありました。

唐突だが、世界はもう終わっちまってる。

それが、終わりにはこう変わります。

世界はこれから始まるんだね…

この曲は、終わりで始まって、始まりで終わるのです。

こんな明るい終わり方ある!?!?

ってわたしは思いました。

アイドルソングにはいろいろあるけど、こうして背中を押してくれるタイプのやつが、ベタだけどわたしは大好きだなと思いました。


でんぱ組.incDear☆Stageへようこそ♡』でした。

でんぱ組.incの曲は以前にも歌詞見てみたことがあるので、よかったらこちらもどうぞ✨

hacosato.hatenablog.com

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うまくいったらこの夏にももう1つ書くぞ〜✏️

Dear☆Stageへようこそ♡

Dear☆Stageへようこそ♡

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