わたしはほんとうに、状況説明のじょうずな歌詞が大好きです。
君から見た僕はきっと ただの友達の友達
たかが知人Bにむけられた 笑顔があれならもう 恐ろしい人だ
いやだってこの2行すごくないですか?
「友達の友達」というポジションであった「君」に、「僕」は一目惚れしてしまった。
ってことがはっきりわかるじゃん。
「好き」とか「恋に落ちてしまった」とか、そういう言葉ひとつもないのに。
きょうはそんな歌詞の、構成のことをお話ししたくて来ました!
わたしも夏の魔物に連れ去られたいぞ〜〜🚗💨🌴🏖☀️
歌詞の仕組みは
J-POPにはたいていAメロ、Bメロ、サビとかがあって、それぞれに歌詞がついています。
そしてその歌詞のつき方にはセオリーがあります。
たとえば、作詞家のいしわたり淳治さんは印象的に展開する歌詞の特徴として、こんな風に紹介しています。
Bメロ→半径0m:内面の話
サビ→半径100m:自分から離れた世の中一般の話
2018年3月11日の「関ジャム完全燃SHOW」(テレビ朝日系)で槇原敬之『もう恋なんてしない』を題材に放送されているのでよかったら見てみて〜!
この特徴はかなり多くの曲に当てはまります。
試しにback number『高嶺の花子さん』で考えてみます。
君から見た僕はきっと ただの友達の友達
たかが知人Bにむけられた 笑顔があれならもう 恐ろしい人だ
これがAメロ。
「友達の友達」に笑顔を向けられた「僕」の描写から始まります。
「恐ろしい」みたいな内面の描写もありつつも、ここは笑顔を向けられている点を重視して「半径5m」と認定します!
つぎはBメロ。
君を惚れさせる 黒魔術は知らないし 海に誘う勇気も車もない
でも見たい となりで目覚めて おはようと笑う君を
これがBメロです。
注目しておきたいんですけど、ここ、完全に妄想なのですよね。
「君を惚れさせ」た事実があるわけでもないし「海に誘う勇気」や「車」はありません。
「となりで目覚めて おはようと笑う君」とはあなたの想像上の存在に過ぎないのではないでしょうか。
というわけで、Bメロは内面の話でした。つまり「半径0m」。
最後にサビです。
会いたいんだ 今すぐその角から 飛び出してきてくれないか
夏の魔物に連れ去られ 僕のもとへ
生まれた星のもとが 違くたって 偶然と夏の魔法とやらの力で
僕のものに なるわけないか
これがサビ。
いままでと雰囲気がすこし違うのがわかります。
「君」という言葉が登場せず、「友達の友達」だった「僕」と「君」との個別具体的な間柄から距離のある表現になっています。
「会いたい」とか「飛び出してきてくれないか」とか、っていうのは、Aメロに出てきたふたりの関係に限らず、世の中のいろんな人間関係に当てはまるフレーズです。
これがいしわたりさんの言う、「半径100m」です。
かくして、back number『高嶺の花子さん』も、セオリー通りのきれいな歌詞だということがわかったのでした。
めでたしめでたし。
ではありません。
わたしがこの歌詞を好きなのには、理由があります。
2番で調和が裏切られるからです。
続く妄想
2番のAメロを見てみると、こんな感じです。
君の恋人になる人は モデルみたいな人なんだろう
そいつはきっと 君よりも年上で
焼けた肌がよく似合う 洋楽好きな人だ
1番とはちがいます。1番は笑顔を向けられて一目惚れした「半径5m」の歌詞だったんだよ! ボク覚えてる!!
ところが2番のAメロは「君」のことが出てきません。
「君の恋人になる人」の話に終始しています。
しかも、
- モデルみたい
- 君よりも年上
- 焼けた肌がよく似合う
- 洋楽好き
いままでで一番人物の描写がしっかりしてる! 「君」の描写とか結構あやふやだったくせに!
その上ですよ。これ全部妄想、なんですよね。Aメロは「半径0m」の歌詞なのです。
Aメロ、1番が「半径5m」だったのに2番では「半径0m」になったからといって、特別困ったことにはなりません。
歌詞なんてたくさんあるし、1番と2番で趣が異なるものもたくさんあります。
問題はBメロです。
キスをするときも 君は背伸びしている
頭をなでられ君が笑います 駄目だ何ひとつ 勝ってない
いや待てよ そいつ誰だ
いま待って。これ妄想の続きじゃん!!
「半径」の実際の数字がどうであろうと、歌詞のよしあしにはそんなに関係がありません。
そうではなくて、AメロからBメロにいくとき、そしてBメロからサビにいくときに、それぞれ「半径」が変化するのが大切なのです。
と、わたしは理解しています。
この歌詞は、Bメロでそのセオリーを外してきます。
Bメロも「半径0m」のままです。
本来変化が似合うところで、変化しきれない、思い切りが足りない、だらだらした歌詞になってしまいます。
でもさ。
それがいいんだよな✨
だってこの部分は「僕」が「君」の恋愛について妄想を膨らませて、それが止められなくなっている部分じゃないですか。
Aメロで収めるはずだった妄想を、Bメロまではみ出させてしまうことによって、それが止められない感じを、遂行的に表現しているのです。
すごくないですか?
「妄想が止まらない」って歌えば短く済むところを、実際に妄想を止めないことで表現しているのです。
わたしがこの歌詞を、いちばん好きに思う部分です。
というわけで、back number『高嶺の花子さん』でした。
いろんなひとが言ってるだろうと思うんですけど、この歌詞好きポイント多すぎるんですよね……。
ほかにも、
会いたいんだ 今すぐその角から 飛び出してきてくれないか
→自分から会いにいく気概出せよ!!
僕のものに なるわけないか
→「僕のものに」で終えておけばかっこいいのに、つい蛇足を付け加えていくスタイル🤔🤔🤔
あとなにより『高嶺の花子さん』というタイトルを歌詞の中で回収しない方針…。
など、見どころたくさんです。
でも今回は世の中のひとがあまり注目しなさそうな歌詞の部分について触れてみたのでした✨
そして、歌詞の構成については、ほかにもいろんな作詞家さんが話をしています。
前にたむらぱん『ジェットコースター』の歌詞についてしゃべったときに、歌詞の組み立てについてのことを書きました!
よかったら読んでね。
hacosato.hatenablog.com hacosato.hatenablog.com
back numberの歌詞を考えたのはこの2曲以来。
また楽しい歌詞のこと発見できてよかったです〜!