5日と20日は歌詞と遊ぼう。

歌詞を読み、統計したりしています。

歌詞のスピード、という概念 - まねきケチャ『きみわずらい』

まねきケチャの歌詞、最近のほかのアイドルの歌詞とはけっこうちがってて、すごくたのしいんです!

というわけで、イントロ部分をご覧ください。

嗚呼 全部 全部 君のせいかも
この世界はまるで地獄だね
嗚呼 全部 全部 君のせいだ
見るものすべてが愛おしいよ
嗚呼 全部 全部 君のせいかも
僕を狂わせる酷い女さ
嗚呼 全部 全部 君のせいだ
さあ責任とって 僕の胸に墜ちてよ

いやめっちゃ繰り返すな!

そうです。まねきケチャの曲は、繰り返しが多いのです。

でもこの繰り返しには、とてもよい効果があります。

今回もぜひ最後までお楽しみください✨

まねきケチャ『きみわずらい』歌詞

歌詞のスピード

この曲のAメロはこういう感じ。

桜舞い散るいつもの坂道
去年とは違う影法師ぼっち
隣に君がいないだけなのに
こんなにも世界が憎らしい
こんなにも世界が憎らしい
こんなにも世界が憎らしいよ

「こんなにも世界が憎らしい」と、3回も繰り返して歌います。

これをレトリックの世界では反復法といいます。反復するとそれだけ強調する効果が出ます。

反復については最近いろんな曲を取り上げたばかり。じぶんの中でホットな話題です。

hacosato.hatenablog.com

しかし、

こんなにも世界は美しい
こんなにも世界は美しい
こんなにも世界は美しいよ

この曲はさすがに、

ど、ど、どうかしてるよね
救いようのない僕を助けて
も、も、もう気が狂いそうさ

全体的に、反復がすぎると思うのです。

だってほとんどあらゆる連に、繰り返しが潜んでいます。

曲のテンポは割と早くて、曲調はAメロからBメロへ、Bメロからサビへと軽快に進んでいくのに、ギアがゆっくりだから歌詞の世界はじわじわとしか進みません。

これを、歌詞のスピードが遅い、と呼んでみようと思います。

というのが、今回のご提案です。


ここ20年ぐらいで、J-POPの歌詞のスピードはとても速くなったというのがわたしの直感です。

古い曲を見てみると、サビはぜんぶ繰り返しだったり、何度も同じフレーズを口にしたりというのがたくさんありました。

それが、近年は物語型の歌詞が増え、その分歌詞の世界は目まぐるしく変化するのが当たり前になりました*1

図鑑型と物語型については以前まとめてみたことがあります。

hacosato.hatenablog.com

今回の『きみわずらい』は、図鑑型の歌詞です。

図鑑型は分量が少ない歌詞が多めになるように思いますが、今回の歌詞は分量が多めです。

その分、図鑑としての描写が精緻なのかと思いきや、そんなことはありません。

この曲の歌詞の分量の多さは、そのまま繰り返しに費やされています。

それによって、濃厚なハンドクリームのような、こっくりした感情が歌詞全体に浸透しています。

でもこれが、タイトルでもある「きみわずらい」感をうまく表現していると思うんです。

骨の髄まで君に侵食(おか)されてます
この病(やまい)君煩い

何度も何度も同じ夢に浮かされる感じとかが病に似てる!


ところで、わたし、一度だけヲタのみなさんがこの曲を堪能しているところを生で見たことがあるんです。

そして、Cメロのところでわたしはもうめっちゃ心を奪われてしまいました。

こういう歌詞があるんです。

「君の名前呼ぶたびに」って、メロディも変えながら5回も繰り返すシーンです。

この想い伝えられないなら
君の名前呼ぶたびに
君の名前呼ぶたびに
君の名前呼ぶたびに
君の名前呼ぶたびに
嗚呼君の名前呼ぶたびに

まねきケチャには5人のメンバーがいて、「君の名前呼ぶたびに」はメンバーがひとりずつ、順番に歌います。

で、そのたびにヲタのみなさんがメンバーの名前を叫ぶんですよ。

「君の名前呼ぶたびに」っていうたびに、名前を。ヲタのみなさんが、そのたびに。

ヲタのみなさんがコールすることによって、歌詞の世界がそのまま成就していくのです。

そして、これを何度も繰り返すことによって「呼ぶたびに」という言葉の説得力がその分だけ上積みされていきます。

そんなことを考えていて、わたしはあることに気づいたのでした。

これは、J.L.オースティンの言語行為論ですわ……(突然の言語学ヲタムーブ)*2


というわけで、まねきケチャ『きみわずらい』でした。

毎年3月9日は桜の曲を取り上げようとしていて、今年は「桜舞い散るいつもの坂道」という歌詞があるこの曲を選びました。まったく触れてないけど。

ところでこの曲、指原莉乃さんがお気に入りとしていることで(わたしの中で)有名です。

好きすぎかよ!

でもリピしたくなる気持ちとってもよくわかります💕

繰り返し聴くことによって、歌詞の世界が成就していくからなのですよね♪

きみわずらい

きみわずらい

きみわずらい

きみわずらい

*1:この辺の話は定量的にやりたいですね。いずれ挑戦します💪

*2:歌詞は、わたしたちが聴く前から存在しているから、わたしの存在とは独立しているのだとふつうは思うわけなんですけど、実際にはこうして、歌うことによってしか息を吹き込まれない歌詞というのがありうるわけなのですよね。じつはそれはことばも同じ。ことばを発することによってしか理論上できない行為(命名とか)があり、それを研究するのが言語行為論です、わたしの理解が正しければ。