5日と20日は歌詞と遊ぼう。

歌詞を読み、統計したりしています。

LINEスタンプしかくれなかった彼氏が突然語り出す - GYARI feat.紲星あかり『アカリがやってきたぞっ』

2018年リリースの曲で、いちばん歌詞が好きな曲、わたし、たぶんこれです。

GYARI feat.紲星あかり『アカリがやってきたぞっ』歌詞

音MADから

歌詞を見るとわかるんですが、この曲、序盤はほとんど意味らしい意味が出てきません。

ドゥンぱーぱーぱーぱーぱーぱーぱーぱードゥンぱーぱーぱーぱーぱーぱーぱー

ドン おっ タン ドン ドッ
おっ? ドッ ディン ドン ドッ
お〜! ドッ パッ ドン ドッ
ドン パッパー ドン ぬっ!
ドン おっ タン ドン ドッ
おっ? ドッ ディン ドン ドッ
お〜! ドッ パッ ドン ドッ
うん シャキーン

サビ(と目されるところ)も引き続きの感じで、やはり意味らしい意味は出てきません。

キラキラ ギュイーン ピカピカ ピコーン もふもふ なでなで にこにこ グルグル デーン ゴロゴロ デデーン わくわく うずうず
バタバタ ノロノロ あ~? ウロウロ あっ てくてく コソコソ ガサガサ すんすん お? ペロペロ おっ いただきます もぐもぐ

散文でも詩歌でもないこの感じはもしや…。

音MAD!

説明しよう! 音MADとは「音系MADとは音楽のリズムを合わせたMAD」のことです。

dic.nicovideo.jp

じつはわたし音MADは履修してないので正確に言えないんですが、既存の音楽をベースにし、そこにまったく別の音楽やアニメなどのセリフや効果音、フレーズなんかを合わせて、その組み合わせの妙を味わう文化、というふうに捉えています。

今回の『アカリがやってきたぞっ』でいうと、ジャジーでおしゃれなBGMに合わせて、紲星あかりというよく知らないキャラクターがおしゃれとは程遠いへんてこなオノマトペをぐんぐん繰り出していく、というギャップがおもしろいところ。

このぐんぐんなオノマトペ。わたしが思い浮かべるのはLINEスタンプのことです。

hacosato.hatenablog.com

まえにヤバイTシャツ屋さん『かわE』の歌詞の話をしたときに、LINEスタンプの話について触れました。

LINEスタンプのように、日常の会話の中にきれいに織り込める歌詞があったら、それは人々の日常に定着したよい歌詞だ、という観点の話を書きました。

それでいうと、この曲にはLINEスタンプの素質が十分にあります。

以下のスクショをご覧ください。

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背景の文字が「ahaha」ではなくて「www」になっているのも見どころ。

なるほど…これは全部使える…。

実際、この方が手がけた別の曲(『何でも言うことを聞いてくれるアカネチャン』)は、なんともうLINEスタンプになっています。

line.me

わかる…。

「ピコーン」「あはは」「わくわく」とかも完全にLINEスタンプ狙えるし、そういう曲が流行するのは時代の必然だよねってわたしは考えています。

音MADはむかしならニコニコの一部の界隈だけで楽しまれていたものだったかもしれないけど、実際にはLINEを使うぐらいの多くの人々のコミュニケーションを円滑にする効果があったんですね、という牽強付会のお話でした。

そして歌詞へ

Are you ready?
Let's go

こんな歌詞が間に挟まって、アーユーレディ?とか言われるから何が起こるのかなと思ったらまた「キラキラ ピカピカ もふもふ なでなで」の連鎖。

この歌詞はだいたいこういう感じのLINEスタンプ連打で終わるのだとわたしは思ったのです。

ところが、それだけでは終わりません。曲も後半になって、突然散文が登場します。

ひとつの光が(Yeah) 輝いて 言葉選んで 紡いだの

わたしたちはえっえっ??ってなります。

ずっとLINEスタンプでしか返信くれなかった彼氏が、突然語り出すぐらいの驚きがあります。

ひとつの光が(Yeah) 輝いて 言葉選んで 紡いだの
辛いときも 寂しいときも
私が いるから

基本的にボーカロイドの音声はやっぱりちょっと聞きづらくて、なにを歌っているのか音だけでは聞き取れないことは往々にしてあります。

そんなとき、わたしたちは字幕を見て、前後の文脈を見て、そして歌詞を聞き取っていきます。人間が歌うのといっしょです。

その点、この曲のMVはこういう感じです。

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歌詞がめちゃくちゃでかいのは最近のボカロ曲MVの特徴。

文字でかっ。

歌詞の文字が大きいのは、スマホでの閲覧を想定したものだと思います。デバイスとコンテンツとの関係はきっと伊予柑さんとかがお詳しいはず。

そして何よりこの歌詞、突飛なことをほとんど言ってないというところがとってもよいです。

ひとつの光が(Yeah) 輝いて 言葉選んで 紡いだの
辛いときも 寂しいときも
私が いるから
続く物語 星の絆で繋ぐから
ずっと ずっと ずっと
私たちと 貴方で
進み 行くよ だから
見ていてね

「辛いときも 寂しいときも/私が いるから」とか、手垢まみれの言い回しです。

でもそうすることによって、聞き取りビリティは大幅に向上します。それこそがこの歌詞の効果です。

手垢のついた言い回しにだって、使いどころがあるのです。

前半のスタンプ連打と、後半の語り。

このギャップだけでわたしはマジでご飯何杯でもいけますね…おかわり!


はぁ楽しかった!

次回こそはあいみょん『君はロックを聴かない』の歌詞の話をしたいです!