5日と20日は歌詞と遊ぼう。

歌詞を読み、統計したりしています。

歌詞の被写界深度 - NHKオリンピック歴代テーマソングを辿って

SEKAI NO OWARIサザンカ』は平昌オリンピックNHKテーマソングです。

MVだいすき! めっちゃよくないですか??

夢を追う君へ
思い出して つまずいたなら
いつだって物語の主人公は笑われる方だ
人を笑う方じゃないと僕は思うんだよ

サビのこんな歌詞が印象的。

「夢を追う君」という部分から、この歌詞の「君」をアスリートに重ね合わせることができるとわかります。

オリンピックのテーマソングにぴったり。

ところで、こういう歌詞がテーマソングになったのは、それほど昔のことではありません。

きょうはNHKオリンピック歴代テーマソングを辿ってみます。

NHKオリンピック歴代テーマソングというWikipediaのページがあります。

都市 テーマソング アーティスト
1988 ソウル HEART & SOUL 浜田麻里
1992 アルベールビル Happy Birthday to You〜ヴィーナスの誕生 松任谷由実
1992 バルセロナ PARADISE WIND 寺田恵子
1994 リレハンメル 遥かな人へ 高橋真梨子
1996 アトランタ 熱くなれ 大黒摩季
1998 長野 SHOOTING STAR F-BLOOD
2000 シドニー Get U're Dream ZARD
2002 ソルトレイクシティ 果てなく続くストーリー MISIA
2004 アテネ 栄光の架橋 ゆず
2006 トリノ 誓い 平原綾香
2008 北京 GIFT Mr.Children
2010 バンクーバー BLESS L'Arc〜en〜Ciel
2012 ロンドン 風が吹いている いきものがかり
2014 ソチ 今、咲き誇る花たちよ コブクロ
2016 リオデジャネイロ Hero 安室奈美恵
2018 平昌 サザンカ SEKAI NO OWARI

きょうはこれを、古い順に追いかけてみます♪

浜田麻里『HEART & SOUL』

HEART & SOUL

1988年のソウルオリンピックのテーマソング。「Soul」と「Seoul」をかけたんだな…。

これ以前はNHKではオリンピックテーマソングがなかったみたいです。どうやって番組編成していたのか想像できないですね…。

さて歌詞はこういう感じです。

Heart and Soul
愛を運ぶ船にめぐり会えたから
Heart and Soul
果てない trip of dream
Heart and Soul
忘れないで奇跡を起すような瞬間(とき)を
Heart and Soul
想いたくして to carry on my own way

いまのテーマソングの感じとだいぶちがいます。

「想いたくして to carry on my own way」のあたりに、競技を応援する側の立場が少し見えますが、全体的にオリンピック感は薄味です

歌詞には一人称も二人称も出てこなくて、短い決めゼリフ(Heart and Soul)にポップさを託してる感じ。

また、「愛を運ぶ船に」のあたりのラブソングっぽさも現在にはすくなく珍しい印象です。

こんな曲から、NHKオリンピック歴代テーマソングはスタートします。

松任谷由実『Happy Birthday to You〜ヴィーナスの誕生

Happy Birthday to You〜ヴィーナスの誕生

アルベールビルオリンピックでは「テーマソング使用曲なし」と書いてありますが、こちらを参考に、ここではテーマソングとして扱います。

前へ 前へ 前へ進むのよ 勇気だして
あなただけの歴史切り拓く
Happy Birthday to you

サビはこういう感じ。この部分だけを見ると、古典的な応援歌の風情を感じます。

前の曲にはなかった「あなた」という二人称が出てくるのも新しいところ。

「あなた」をアスリートに見立てた読み方ができて、オリンピックの応援にぴったりな感じです。

でも、この曲、サビの前にこんな歌詞があるんです。

幾千年もくり返された
本当の愛を得るための苦しみが
あなたを待つのね おめでとう

結局ラブソングかよ!! (しかもなんか深遠でよくわかんない…。)

寺田恵子『PARADISE WIND』

PARADISE WIND

夢見て憧れて求めて 追いかけて
自分を越えて行こう

PARADISE 燃える太陽に
PARADISE いつか手が届く

Bメロからサビの部分が、どことなくオリンピックの感じ。

ところでこの曲でも人称代名詞がほとんど出てきません。80年代から90年代の特徴なのかな。

また新しい 君に出会える

最後に一度だけ出てくる「君」。これだけの手がかりでは「君」がアスリートとも応援側とも、どっちともとれますね…。

高橋真梨子『遥かな人へ』

遥かな人へ

人を愛するため 人は生まれた
苦しみの数だけ やさしくなれるはず

サビの部分はこういう感じ。

「苦しみの数だけ やさしくなれるはず」はなんとなくオリンピックっぽい感じがします。

でも「人を愛するため 人は生まれた」はたぶんオリンピック関係ないぞ!

この曲までは歌詞に人称代名詞が出てきませんが、その時代も次の曲で終わります。

トレンドは少しずつ変化するのです。

大黒摩季『熱くなれ』

熱くなれ

この曲は、一人称、二人称の代名詞が両方揃った初めての曲です。

歌詞はこういう感じ。

SHININ' MY LIFE 時間を越えて
この思いあなたに届け
BREAKIN' A TIME 言葉よりも
まっすぐに今その胸に
もっと もっと 熱くなれ

わたしこの歌詞が、歴代の中で最もオリンピックっぽくないテーマソングだという気がしています。

「この思いあなたに届け」「熱くなれ」という部分だけを取ると応援する側の熱い思いが目に浮かびますが、この曲のAメロを見ると考えを改めざるを得ません。

泣きたいのに笑ったり
冷たいふりをしたり
優しい人ぶったり 誤解させたりするのは
やっぱりあなたが好きだから

これはどう考えてもラブソングだ……。

それが悪いとかいいたい気持ちはぜんぜんありません。

でもあとで出てくるのですが、最近のオリンピックのテーマソングはほとんど恋愛の要素がないのです。

ラブソングっぽさが出てくるのが90年代の特徴で、出てこないのがいまの特徴だと言えそうです。ふしぎ!

F-BLOOD『SHOOTING STAR』

SHOOTING STAR

SHOOTING STAR この胸に夢を乗せて降りてこい

サビのこういう部分は、これまでのオリンピックのテーマソングのトレンドをしっかり受け継いでいます。

サビ頭に「SHOOTING STAR」っていうキャッチーな英語を持ってくるやり口、ほかといっしょですね。

SHININ' MY LIFE
  PARADISE
  Heart and Soul

こういう歌詞、最近のオリンピックテーマソングではもうあまり見られません。

でも、絶滅したわけでもないんです。

競技は違いますがいまでも人気の曲があります。B'z『ultra soul』とかが該当しますね!

ZARD『Get U're Dream』

Get U're Dream

この曲!

わたし今回調べて初めて聴いたんですが、この曲がオリンピックのテーマ曲史におけるひとつの曲がり角だった気がします。

はっきりとオリンピックだけをテーマに歌詞が描かれていると思うからです。

たとえ遠く 離れてても
I hear your voice 君の声が
倒れそうになった 時 かすかに声が聞こえた

サビ前半のこの部分だけでは、主人公がどういう状況かわかりません。

主人公は何らかの理由で「倒れそうになった」のはわかりますが、それが失恋なのか、過労なのか、べつの理由なのかわかりません。

I wanna be with you, but you're far away
だけど夢や希望があるから
今よりもっと強くなれるはず
I will..., Get U're Dream!

でもここを見てはっとするんですよ!

「今よりもっと強くなれるはず」っていうのは何かのスポーツかな?って。

そして強くなることで「I will..., Get U're Dream!」と主人公は叫びます。

わたしは、この曲の主人公はオリンピックに出場したアスリートだと思いました。そして「君」とは、主人公の前に敗れたライバルです。

「U're Dream」とは、オリンピックに出場することであり、主人公が強くなることでそれが手に入るんですよ!

って妄想が像を結んだとき、この曲のことがすごく好きになりました。この妄想で薄い本が書けると思ったよね。(書けない)

MISIA『果てなく続くストーリー』

果てなく続くストーリー

なんと2002年リリースのこの曲には公式MVがYouTubeにあります。ずっと前の曲なのに。すごい。

Just going my way 思う道をあなたは ただ進めばいいの
果てなく続く夢は 小さな星を廻し続けてる きっと

この曲にはひとつとても大きな特徴があります。

それは、アスリートを二人称で呼んでいることです。そして、「あなたはあなたらしく」という視線でアスリートを応援していることです。

それまでの応援歌は、たとえば松任谷由実『Happy Birthday to You〜ヴィーナスの誕生』のように、前へ前へと鼓舞するようなイメージの曲が多く見受けられます。

前へ 前へ 前へ進むのよ 勇気だして

あるいはF-BLOOD『SHOOTING STAR』のように、いつか夢が叶う、というようなひとつのゴールを設定した歌詞が多いと思います。

SHOOTING STAR この胸に夢を乗せて降りてこい

MISIA『果てなく続くストーリー』は、そこに新しい視点の応援の仕方を取り込みました。それが新しくてステキです✨

Just going my way 思う道をあなたは ただ進めばいいの

ゆず『栄光の架橋

栄光の架橋

一般的なことをふわふわ書くよりも、特定の部分にフォーカスを当てたほうが描写に深みが出ておもしろい、っていうのは作詞界の鉄板です。

「電車の窓に」よりも「小田急の窓に」のほうが歌詞にフックがあって気になるし、「チェックのマフラー」よりも「グレンチェックのマフラー」のほうが気配りが見えて上質なプレゼントに感じられます。

さて。

誰にも見せない泪があった 人知れず流した泪があった
決して平らな道ではなかった けれど確かに歩んで来た道だ
あの時想い描いた夢の途中に今も
何度も何度もあきらめかけた夢の途中

いくつもの日々を越えて 辿り着いた今がある
だからもう迷わずに進めばいい
栄光の架橋へと…

Aメロからサビまで全部引いてしまいました。

これまで、オリンピックのテーマソングは(『Get U're Dream』を除いて)特定のなにかにフォーカスを当てたりはしませんでした。

例えていえば、ピントを合わせるという概念がない、ピンホールカメラのようです。

でもこの曲は違います。

この曲はこの7行ぜんぶを使って、オリンピアンの努力にピントを合わせました。

しかも、ただピントを合わせただけではありません。ピントの合う範囲はじつはすごく広くて、いろんなひとに思い当たる節があるように仕掛けてあります。

めっちゃパンフォーカス。

ここが、この曲の大きな特徴であり、この曲の武器です。

平原綾香『誓い』

誓い

胸に誓うよ 永遠(とわ)に果てしない道も
乗り越えてゆくと
たどり着くまで そのときまではきっと
あきらめないから

この歌詞、主人公はアスリート自身です。

テーマソングはどちらかというと応援する側が主人公、アスリートが「君」になって、アスリートの背中を押すような曲が多いですが、この曲は反対です。

それがこの曲の見どころ!

栄光の架橋』のリアルタイムをわたしはよく知らないんですが、きっと当時から人気の曲として受け入れられていたのだと思います。

それに続くテーマソングを描くのは、大きなプレッシャーです。

でもこの曲は、立ち位置を反対にすることで、ちゃんと前の曲との間に違いを生み出せています。そこがいいなとわたしは思います。

Mr.Children『GIFT』

GIFT

まずこの曲は、オリンピックの曲なのに冒頭の1行にインパクトありすぎです。

一番きれいな色ってなんだろう?
一番ひかってるものってなんだろう?

オリンピックなんだから金が一番、っていうのがわたしたちの常識です。

でもそれを疑って、その上でちゃんとした応援歌を作れるのがプロの仕事だなぁってわたしはつよく思います。

この曲は前にたくさん語ったのでぜひ読んでほしいです♪♪

hacosato.hatenablog.com

L'Arc~en~Ciel『BLESS』

BLESS

君へと夢は今 目の前で煌めいてる
花弁の舞降るような雪が祝福した

二人称の「君」がアスリートですね。

でもこの曲でおもしろいのは一人称です。

この曲には一人称が出てきません。出てこないのはいいんですが、目線がどうも神の視点っぽくないですか?

「雪が祝福した」とか「夢は(中略)煌めいてる」みたいな無生物を主語にする感覚が、他の歌詞とはっきり異なっていておもしろいです。

L'Arc~en~Cielらしさを残しつつ、オリンピックの感じを出そうとするとこんなクロスオーバーがたのしめるんですね! 贅沢✨

いきものがかり『風が吹いている』

風が吹いている

さっきからわたしはオリンピックらしさ、みたいな話をずっと主張してきましたが、それを乗り越えてもっと遠くに向かった歌詞がこれだと思います。

風が吹いている 僕はここで生きていく
晴れわたる空に 誰かが叫んだ
ここに明日はある ここに希望はある
君と笑えたら 夢をつなぎあえたなら
信じあえるだろう 想いあえるだろう
この時代を 僕らを この瞬間(とき)を

さっき、わたしは『栄光の架橋』の中で、その歌詞の具体性について触れました。

『風が吹いている』のアプローチはその逆です。

テーマをもっと抽象的に、一般的にしようと試みているみたいに思います。

オリンピックはスポーツの大会ですが、その先にはただのスポーツにはない、もっと大きい効果があります。

そのひとつは、オリンピックを契機に、ひとびとが同じ話題を共有して、時代を結びつけるという効果です。

いきものがかりはオリンピックのそういう効果に注目してこの歌詞を作ったんだろうなぁと思っています。

しかもそれがポップな曲になって、みんなが知ってる曲として産まれちゃっているのがほんとにすごいとわたしは思います。

抽象的なことって歌詞にはなりにくいと思うのに。

だからこの歌詞はすごいです。水野さんはヤバいのです。(語彙力)

コブクロ今、咲き誇る花たちよ

今、咲き誇る花たちよ

今 咲き誇る花たちよ 天高く羽ばたけ
愛すべきこの世界を彩るように

アスリートたちを「花たち」になぞらえた歌詞、かたちだけ見ると『BLESS』に似ているはずなのに、やはりたたずまいはまったく違いますね。

こちらは神の目線というよりも、もっと卑近な視線から「花たち」を見ているような印象です。

その秘訣はたぶん「僕」という人称代名詞です。

神は自分のことを「僕」と呼んだりしないでしょうから、そこでこの曲の個性が引き立っているのだろうなと感じます。

安室奈美恵『Hero』

Hero

この曲はアスリート自身が一人称であるところにおもしろみがあります。

君だけのための hero
どんな日もそばにいるよ
Oh Oh... I'll be your hero
君だけのための hero

でも、それだけならたとえば『誓い』とも同じです。

この曲のいいところは、歌詞の続きの英語の部分。

Oh Oh... I'll be your hero
Oh Oh... And you are my hero

自分がHeroであるのと同時に「You」もHeroであるのです。

互いが互いのHeroなんですよ!

そしてこの構図は『GIFT』と同じです。

同じ構図がこんなに違う印象の歌詞になりうるなんて!っていうのが、楽しい発見です。

SEKAI NO OWARIサザンカ

サザンカ

そしてこの曲。

ドアの閉まる音 カレンダーの印
部屋から聞こえる 君の泣き声
逃げる事の方が怖いと君は夢を追い続けてきた

サビよりもAメロのほうがはっきりしていると思ったので、この部分を引用しました。

ここ、ものすごく具体的なエピソードが綴られています。タイプとしては『栄光の架橋』に似ています。

でもこの曲では「部屋から聞こえる 君の泣き声」とかいったように、主人公と「君」が非常に親密な関係にあるのがわかります。

エピソードは『栄光の架橋』よりもずっと具体的です。

この曲では、ピントがものすごく狭い範囲に絞ってあります。

その極薄の被写界深度が像を結ぶ瞬間に、神経を集中させて描かれたのが、この歌詞なのだとわたしは思います。

夢を追う君へ

というおおらかな歌詞は、しかし像を結ぶ瞬間がひとつではないことを教えてくれるようで、そこもとても気持ちがいいですね!


というわけで、NHKオリンピック歴代テーマソングでした。

こうして比べてみたのは初めてだけど、とってもたのしい!

これからもこんなテーマでほかにも考えてみたいと思います♪

サザンカ

サザンカ

サザンカ <完全生産限定盤>

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