女声合唱のための『推しが尊い』って曲めっちゃよくないですか?? ちょういい…とうとい……😭😭😭
女声合唱曲のための「推しが尊い」
— 森 雄太@作曲中 (@Yuta_Mori) 2018年2月3日
ご査収くださいませ。 pic.twitter.com/H1HdH2GZFh
この曲のイントネーションとメロディを重ね合わせてみました。
イントネーションを調べる!
この曲と歌詞、歌詞をふつうに読んだときのイントネーションとメロディがかなり合致してるんですよ!
というわけで、まずこの曲の歌詞を起こします。
クソ度をあげた pic.twitter.com/zOZxK5h13T
— みゅーら (@myulla) 2018年1月30日
みゅーら(@myulla )さんのこのツイートが元のようなので、あとは楽譜を見ながら起こしました。
今日も尊い
推しが尊い
マジ無理 しんどい 最高かよ
これで明日も生きていける推しに幸あれとは祈らない
私の財布が推しを幸せにする
1日1万 感謝の追い課金
毎分毎秒課金しよ
歌う間も課金しよ
『NHK日本語発音アクセント辞典 新版』を見ながら、各単語のアクセント核を記入します。新しい版がほしい……。
ところで「心」って単語、 「こ/こ\ろ」 ってイントネーションだということになっているんですが、これってほんとなの……。尾高型じゃないの……。
NHKのアクセント辞典は思ったより収録語多かったんですが、それでも掲載ないやつもあります(「マジ」「しんどい」など)。 そういうやつは『新明解国語辞典』を使って調べます。 わたしの手元にあるのは第5版です。
ふつう辞書に立項がないような語もあります(「追い課金」など)。 そういうやつは『音声を教える』で調査しました。この本ヤバい。この章の話はみんなこの本をベースにしています。
終助詞の連続や、動詞の連用形の連続などはそこでも調べられません(「最高かよ」「押し固め」)。 そこはわたくしの内省におまかせください!!(一抹の不安)
そうしてアクセント核を記入したら、今度はフォーカスを考えます。 フォーカスとは「これまで聞き手の知らなかった新しい情報を持ち、話し手が聞き手に文の中でいちばん伝えたい部分のこと」です(前掲 p.114)。
「日本語のイントネーションでは、文の途中にフォーカスがあるとき、その部分から「イントネーションのヤマを新しく始める」という決まりがあります」(前掲 p.114)。この性質により、フォーカスがわからないと、正しいイントネーションにたどり着けません。
後述の細工により、この部分はあとでご説明します。
こうして最後にイントネーションが判明します。
この点線の部分がイントネーションです。よくやった自分!
メロと重ねる
では、次にこのイントネーションの流れを、メロディと比較してみます。
メロディはイントネーションのヤマに合わせて単純化させて、大まかなかたちだけを見てみます。
そして、アクセント核がある場所のメロディが下降していない個所は「メロディがアクセント核と非合致」と呼び、それ以外を「メロディがアクセント核と合致」と呼ぶようにしました。 行末にあるアクセント核は無視しました。また、アクセント核がない場所のメロディの流れは問わないことにしました。
それを歌詞と重ね合わせると、こういう感じになります。
まって! めっちゃ一致してない??
そうなんですよ! この曲、歌詞とメロディの一致度がすっごいんですよ!!
じつはほかの曲で試してみたことがないのでめっちゃ言うことができないんですが、これは非常に高い気がする!
つまり、メロディが歌詞の背中を押してくれているということ! すごい!!
ってことがわたしは言いたかったです。ありがとうございました……。
ところでこれだけの合致が見られるのにはすこしチートがあって、わたしメロを見ながらフォーカスを決めたんです…。
でも言い訳させてください。
私の財布が推しを幸せにする
のどこがフォーカス部分かなんて、ちょっと判断つかなくないですか……。
つまり今回いえることは、メロディから歌詞の中で強調したい部分がわかる(可能性がある)ってことです!
一致してないところもあるじゃん!
ところで、イントネーションとメロディが合致していないところもあります。
でも、そういうところにはそういうなりの効果があると思うんです!!
冒頭の3行の中では、「マジ無理 しんどい」だけが非合致部分です。
でも歌詞の内容を考えてみるとこの部分マジ無理でしんどいんですよ!
つまり、歌詞の内容における認知的不協和(想定を遥かに超えて推しが尊い)を、この非合致が表現していると読めるんですよ! すごくないですか!!
わたしの中のダークハコサトがさらに畳み掛けます。
でも続くこの部分、完全にイントネーションとメロディが合いません。さすがにこれはおかしいのでは……。
これで明日も生きていける
いえ、そんなことはありません。
この部分はまだ始まって4行しか経過していません。「推しが尊い」以外の情報がまだほとんどないのです。まだ主人公は、言いたいことを言い切ってないんですよ。ここで死ぬわけにはいかないのです。
続く歌詞はこういう感じです。
推しに幸あれとは祈らない
私の財布が推しを幸せにする
この部分がこの歌詞でいちばん意外性があるところだとわたしは思うんです。
「推しに幸あれとは祈らない」。この一瞬どきっとさせる表現は、剛力彩芽さんのあの曲につながるキャッチーなやり口です。
推しに幸あれとは祈らない
私の財布が推しを幸せにする
この2行、イントネーションとメロディがぴったり寄り添っているのが印象的でした。ほらやっぱりそういうことじゃん!
今日も生きよう 推しが為
明日も生きよう 推しが為
最後の2行に繰り返される「推しが為」は、その前に出てくる「押し固め」と押韻しています。
この部分、基本的にイントネーションとメロディがほとんど合っているのに、「あしたも」の部分だけわずかに合わないのがかわいいですね。
推しを推しているとき、そこには不確かな未来などなく、シンプルにいまがあるだけなのですね✨
参考文献
単語単位のアクセントを調べるときに最初に当たるのがこちら。わたしが持っているのは古い版(『NHK日本語発音アクセント辞典 新版』)の電子辞書版だからなのか、いちぶ内省と違うところがありました。 つい最近出た新しいやつがほしいよう〜☆ 世の中に国語辞典はあまたありますが、数少ないアクセントが載っている辞典です。『NHK日本語発音アクセント辞典 新版』になければこちらを当たりました。変な語釈ばかりが注目されるけど、それ以外でもわりといいとこあります。 日本語の単音の発音から、リズム、アクセント、イントネーションまでカバーした日本語の先生のための本。 いやこの本めっちゃすごいから! 今度ちゃんと語る!! とりま今回イントネーションの話はだいたいこの本をベースに書きました。この記事になにか問題があればご連絡ください!
次回は米津玄師『灰色と青(+菅田将暉)』をやります。