こんにちは。
きょうはみきとP feat.GUMI・鏡音リン『いーあるふぁんくらぶ』の歌詞の話をします。
ハイハイチャイナ ちょちょ夢心地 いーあるふぁんくらぶ
だんだん君と同じ言葉が使えるね
うぉあいにー 言えるかな
っていうサビだけを見ていると、なんだか脳天気なフレーズを組み合わせただけみたいに見えます。
でもわたしはこの曲のトピックがほんとにだいすきです。
トピックというのは、この曲の主題です。テーマです。
この曲はラブソングじゃないし、ただの盛り上がりソングではないし、もっとちがう、めずらしいことを主題にしているとわたしは思います。
わたしはこの曲、ただ中華っぽい雰囲気を出したかっただけではないと思います。
きょうはそういう話!
みきとP feat.GUMI・鏡音リン『いーあるふぁんくらぶ』歌詞(初音ミクWikiへリンク)
トピックってなんだ!
曲のトピックなるものは、どうやって決めることができるのでしょうか?
ある程度再現可能な方法で曲のトピックを分類した事例として、Lyric Jumperが挙げられます。
「アーティストごとに歌詞のトピックの傾向を可視化する機能」とかがあって死ぬほどおもしろいのでとりあえず使ってみて!!
アーティストを歌詞で分類したり、トピックに沿って歌詞を探したりできるよめっちゃたのしい! 1時間ぐらいあそんでた!!! / “Lyric Jumper 歌詞の世界に飛び込もう” https://t.co/8HwZp4gG1K
— ハコサト (@hacosato) 2017年2月22日
↑これはLyric Jumperがリリースされたときのhacosatoさんです。
Lyric Jumperでは、技術的には下記のような方法で歌詞をトピック分類しています。
ということなので、たぶん主成分分析みたいなことをしたあとで、それぞれの主成分について合いそうな名前を人間が考えて付けているのだと思います、きっと。
こうやってみると、それぞれのアーティストさんの特徴をたしかにじょうずに捉えているように見えますね。
たとえば「横山だいすけ、三谷たくみ」っていうのはうたのおにいさんとおねえさんです。なるほどおかあさんといっしょの曲は「コトバ遊び」といえそうな曲たくさんありそう! そんな感じある!
さて、Lyric Jumperでは曲ごとのトピックも探ることができます。
『いーあるふぁんくらぶ』では「みんなでうたおう」と出ました。
みんなでうたおうが中心的トピックになっているアーティストはこういう感じ。
言い得て妙!って感じだし、あえてジャンル分けするならたしかにここかな?って感じもしますが、それでもわたしは、この曲のトピック分けには反旗を翻したいと思います。
この曲のトピックは、言ってみるなら「学ぶってたのしい」だと思うのです。
学ぶってたのしい!
神戸 中央区 元町。(駅前)Aメロは固有名詞まで入った丁寧な状況の紹介から始まります。
今日からドキドキニーハオハンユー講座
大人、中高生、おばちゃんに「…こんにちわ」
「ダメダメここではあなたも“你好”!」
中華風の味付けがついてるのはわかりますが、ここまでのところでは、まだ中心的なトピックはわかりません。
マジで…。テキスト三ページ(早くも)
ここはとにかく羞恥心に勝つぞ
一万三千円の月謝は(安くない)
好好大家 ご機嫌いかが
Aメロの続き、主人公の「マジで…」「羞恥心に勝つぞ」みたいな独り言が歌詞に直接入っていてコミカルです。
「月謝は(安くない)」みたいなフレーズから、わざわざ月謝を納めてまで中国語をものにしようとする主人公の動機付けが際立ってきますけど、その中身はまだわかりません。
主人公さんはどうして中国語を勉強しているんだろう?
そういうナゾが残ります。
『お母さん お馬さん』(媽馬)そのナゾは、Bメロで解決します。
『ここはどこ 君は誰』(你是誰阿)
大好きなワン・リーホンに 大好きだって言うため
「大好きなワン・リーホンに 大好きだって言うため」
なるほど、国境を越えたラブソングか!!
ってわたしは思いました。しかし違うのです。
ハイハイチャイナ ちょちょ夢心地 いーあるふぁんくらぶ
だんだん 君と同じ言葉が使えるね
うぉーあいにー 言えるかな
主人公は「だんだん 君と同じ言葉が使えるね」とうれしそうです。でもそこにワン・リーホンの姿はありません。
そもそもこの曲は神戸中央区元町駅前の中国語講座から始まっています。
始まりの時点ではワン・リーホンいなかったじゃん!!
つまりこの曲の1番は、中国語の話で始まり、中国語の話で終わるのです。
主人公の頭にあるのは中国語のことです。
「だんだん 君と同じ言葉が使えるね」っていうのは、つまり「学ぶってたのしい」ってことじゃないですか!!
みかちゃんも「学ぶってたのしい」!
ところで、この曲2番で「みかちゃん」っていう新しいキャラが出てきます。
もうJ-POPラブソング業界に毒されているわたしは予感するんですよ。
すわやっぱりラブソングかよ! スクールラブだろ百合なんだろわたしにはわかるのだ!!
実際にはまったくちがいます。
そこで知り合った女子高生(みかちゃん)みかちゃんはジェイ・チョウのコンサートに行きたくて、主人公もそれを応援しています。
曰く、台湾でジェイ・チョウのコンサート
それは行かなきゃだめだ(ところで)
みかちゃんしれっと言ってるけど海外だよ?
ってことはスクールラブじゃないじゃん。
まじで…。エンジンかかってんな(みかちゃん)主人公はみかちゃんに出会って「ここはとにかく便乗して頑張るか」と述べます。
ここはとにかく便乗して頑張るか
六万数千の旅費も(安くない)
それでは再見バイト探さなきゃ
みかちゃんが中国語と向き合うように、主人公も中国語に向き合います。みかちゃんと主人公の間には、直接の相互作用はありません。これニーチェでいう「星の友情」ってやつでは…って思っています*1。
このあとみかちゃんのことは歌詞には出てきません。だからたぶん関係が深まったりはしないのです。
単に主人公とみかちゃんは、同じ夢を目指す同志です。
その夢の中心には中国語があります。
この曲はこういう風に終わります。
うぉーあいにー 言わせてよ
うぉーあいにー 言えるかな
我愛你
「うぉーあいにー」が最後に「我愛你」に変わるところに、わたしは「学ぶってたのしい」を見いだしてしまいます。
できなかったことができるようになるの、最高じゃないですか??
というわけで、みきとP feat.GUMI・鏡音リン『いーあるふぁんくらぶ』でした。
どうして「学ぶってたのしい」がLyric Jumperにないのでしょうか。
それはきっと、そういうトピックが非常に少ないからです。主成分分析をしたときの累積寄与度がなんとかかんとか(あやふや)。
人生においては「学ぶってたのしい」って思うことが少なからずあると思うのにね。
ところでわたしはボカロ曲好きで聞くんですが、初音ミクさんが好きとか、そういう気持ちはぶっちゃけわたしにはぜんぜんありません。
わたしはボカロ曲を取り巻くカルチャーが好きです。ボカロ曲って、ほかのJ-POPではあまりないようなトピックの曲がよくあると思うんですよ!
たとえば、これに似た曲ってたくさんありますか?
残念ながらわたしは知らないのです。
こういう曲にたくさん出会えるのマジで最高だと思うからこれからもみなさんには最前線を切り開いていっていただきたいって思ってます!!
*1:戸谷 洋志『Jポップで考える哲学』。めっちゃたのしいからこんどぜったい記事を書く!