5日と20日は歌詞と遊ぼう。

毎月5日と20日に、J-POPやボカロ曲などの歌詞を読んだり、統計したりしています。twitterは@hacosato。

1音符に1モーラのルールで - DECO*27 feat.初音ミク『ゴーストルール』


DECO*27 - Ghost Rule feat. Hatsune Miku / ゴーストルール feat. 初音ミク
こんにちは。
DECO*27 feat.初音ミク『ゴーストルール』、ミリオンおめでとうございます!
この曲いまやカラオケの定番になってるボカロ曲の当時の記録を塗り替えたりしてて、すごいんです。
たとえていうとウサイン・ボルト選手のジュニア時代の記録を塗り替えるような感じだよ!


でね、この曲、拍と言葉の乗り方にすごく工夫があると思うんですよ!
それをわたしはいいなって思ってるんですよ!

っていうのがきょうのはなしです。

DECO*27 feat.初音ミク『ゴーストルール』歌詞(初音ミクWikiへリンク)

Aメロのモーラは等間隔♪

この曲でわたしが話をしたいのは「モーラ」のことです。
モーラというのは、日本語の音の長さの単位です。
「チョコレート」だったら「チョ・コ・レ・ー・ト」で5モーラです。文字数でもなくて、シラブルの数でもなくて、拍のことをモーラっていいます。
「っ」以外の小さい文字(「ぁ」「ゃ」とか)を無視して字数を数えるとモーラになる、よね。
日本語のモーラには「物理的な長さは厳密な意味で一定というわけではないが、心理的には話し手・聞き手はほぼ同じ長さに感じている」という特徴があります*1
だから、各モーラがぜんぶ8分音符に乗るとかすると、まるでしゃべってるみたいなリズムになります。
「あかりをつけましょぼんぼりに〜」という『うれしいひなまつり』は、各1モーラが音符ひとつに対応しています。
あとは、

この曲の26秒ぐらいからの速いところはまさにその感じ。

今回の『ゴーストルール』は、そういう曲と少し似ていて、でも少し違います。
初音ミクの消失(LONG VERSION)』では、あの速いところは全部同じ長さの音符でできていました。速さに気を取られて見落としてしまいがちですが、この曲は1モーラが1つの長さの単位をなしていて、それがきれいに呼応しています。その代わり、音としてはすごく単調です。だからスピードというスパイスをふりかけたんですね。
『うれしいひなまつり』はAABAの構成ですが、Bにあたる部分だけ「ごーにんばやしの」ってなっていて、そこにスパイスがあります。でもあとは平坦なリズム。

『ゴーストルール』は、そういう曲とは違います。楽譜には4分音符も8分音符もあって、リズムには変化があって、さっきよりもずっと起伏があり楽しいです。
だけどね! ここに乗る歌詞には工夫が施されています。
それは、4分音符には2モーラが、8分音符には1モーラが乗っている、ということです。

さて、楽譜に起こしてみましたよ!
f:id:hacosato:20160228211814p:plain

最初の行は、

どうだっていい言を 嘘って吐いて戻れない
です。
「どう」の部分は4分音符です。4分音符に2モーラ乗るので、1モーラあたり8分音符ひとつ分の長さで発声されます。
「だっ」の部分も4分音符です。さっきと同じく、1モーラあたり8分音符ひとつ分の長さで発声されます。
「て」の部分は8分音符です。1音符に1モーラ乗っているので、ここも8分音符ひとつ分の長さで発声されます。
「いい」の部分は、8分音符2つがスラーで繋がるので、結局ここも1モーラあたり8分音符ひとつ分の長さで発声されます。
「こ」「と」は同じで、それぞれ1音符に1モーラ乗っているので、ここも8分音符ひとつ分の長さで発声されます。
「を」は4分音符と解釈しましたが、ここのあとに休符があり、みんなここで息継ぎしそうなので、結局8分音符ひとつぶんと大差ない長さで発音されます。
というわけで、言葉にすると冗長ですが、歌ってみたりするととっても単純なルールに基づいてできているんですよ! おわかりいただけましたか?
この曲は、1モーラの長さを整えることによって、なんかしゃべってるのと変わんないようなリズム感を醸成しているんですよ!!
今回歌詞の中で、赤い色で表記したのは、1モーラが8分音符よりも長いところです。特にAメロでは、赤字がとっても少ないことがわかっていただけると思います。

しかもですね、4分音符ひとつに2モーラ詰め込まれている部分は(採譜という原因もありますが)、もひとつ特徴があります。
それは、2モーラ1音節でできている音だということなのですよ!!
音節っていうのもことばを区切る単位なのですが、こちらはひとつの母音を含むとひとつの音節として数えます。また、二重母音はひとつにまとめます。
ほとんどの場合、2モーラあったら2音節です。でも例外があって、2つセットにすると1音節になって相性のいい組み合わせっていうのがあるんですよ。
たとえば「どう」とか。あと「だっ」とか。あと「いい」とか。
この曲の赤い文字の部分を見て!
歌い出しの「どう」は2モーラ1音節。
「だっ」も2モーラ1音節。
「いい」も2モーラ1音節。
なんて偶然!
結局4分音符に乗っかっている音は、ぜんぶ2モーラ1音節になっているってことがわかるね! すごい!

ひとつの音に二つ以上のことばの音を乗せるのは、一般論としてけっこう大変です。

三代目 J Soul Brothers from EXILE TRIBE / 「R.Y.U.S.E.I.」Music Video
たとえば、

人生一度きり DREAM 掴(つか)みたいから今
っていう歌詞の曲が仮にあったとします。
あったとすると、「つか」のところ、1つの音符に2モーラ乗るはずです。
でも「つか」の組み合わせは、2モーラで2音節です。1音節にまとまることはありません。
だから、ひとつの音に乗せるとどうにも窮屈な感じになってしまいます(この曲の場合は、イ音の連続がなくなってア音に移り変わる、という別のよさがあってこれまたとってもいいのですが、それはまた別の話)。
しかし『ゴーストルール』にこういうフレーズがあったらそれはちょっと窮屈です。

こんなふうに、Aメロはだいたいずっと、8分音符ひとつに対して1つのモーラが埋め込まれていました。だから、しゃべるような自然なステップが、きちんとしたメロディに乗って歌われることができたのでした。

ところで、音楽には変化が不可欠です。ずっとこの調子だったら、意識しなくたってなんとなく退屈な感じが出ます。『初音ミクの消失(LONG VERSION)』でも、早口のところが終わると、急に歌うペースがゆっくりに変わったりしていたんだし。『うれしいひなまつり』もBメロには転機がありました。
それは『ゴーストルール』でも同じです。

Bメロのモーラは変幻自在

f:id:hacosato:20160228212433p:plain
Bメロに入ると、ひとつひとつの音の長さが急に長くなります。それは、Aメロからの違いを強調する、という効果を生んでるんですよ!
歌詞はこうです。

おいでココまで 捨てい
よく見て! このうち、4拍以上伸ばすのは、「おい ココまい」、とすべてエの音で揃えてあります。
これが偶然なわけがあるでしょうか。いやない(反語)。

さらに、Bメロの後半は、付点4分音符の連続になり、また少しリズムの感じが変わります。
これは、Bメロの終わりを予期させる効果がありますよね。
ってことは、つまりサビの始まりを予期させるんだよ!!

しかも、ここで歌詞の乗り方もまた少し変わります。
いままで、Aメロは基本8分音符ひとつに1モーラが乗っていました。
Bメロ前半は、ひとつひとつのモーラが長く伸ばされるようになっています。
Bメロ後半は、1つの音符に2モーラ2音節が乗り始めます。
3つめの音符は「して」、4つめの音符は「しまっ」ということばが乗っています。
それぞれ、2モーラ2音節、3モーラ2音節です。
いままで、ひとつの音に複数のモーラが乗る場合でも、音節は必ずひとつというルールがありました。ここではそれが崩されています。
でも、そんなに変ではありません。
なぜなら、それぞれ1音節目の「し」の音が、無声化母音になって、母音が発音されないからです。
「して」は[çi̥te]、「しまっ」[çi̥mat]って感じで発音されます。発音記号の[i]の下にマルが付いてて[i̥]になってるのがポイントです。
そうすると、この音には結局ひとつの母音しか乗らないことになります。だからここは、さっきとはまた違う音の響きになります。どっちかっていうと、さっきの『R.Y.U.S.E.I.』の感じに近づくよね。
Aメロとも違うし、Bメロ前半とも違って、変化があっておもしろいところ!

f:id:hacosato:20160228213913p:plain
サビに移ると、またこことは違う感じになります。
「メー」「デー」はそれぞれ2モーラ1音節で、4分音符に乗っています。
「ぼ」「く」「と」「わ」はそれぞれ2モーラ1音節で、8分音符に乗っています。
だからサビは基本的に、Aメロと同じルールでできていることがわかります。
1モーラは8分音符ひとつぶんというわけです。
この部分でも、1モーラが長い個所に赤い印を付けてみました。すると、おもしろいことがわかります。
赤い印は、かならず付点4分音符(8分音符3つぶん)の長さです。
そして、赤い印はかならず偶数小節目にあります。

これがどういうことだかわかりますか?
赤い印は、ちょうど息継ぎの個所にあたるんですよ!!

この曲は、基本的にはすべてのモーラ(拍)が同じ長さになるようにできています。
そして、息継ぎの個所だけはすこし隙間を取ってあります。
そうすることによって、曲として自然な感じが醸成されているんですよ!!
わたしはそれに感動しました。
っていうのが、今回のお話です。まる。

オマケ

もうですね、わたしめっちゃ『ゴーストルール』ハマっちゃいまして、延々と繰り返して聴いてたんですよ。
なんですけど、さすがに10周を越えるとなんか飽きてきまして…。
そこで、今度は歌ってみたをずっと聴いていました! これでもう10周はカタい!!

ところで、いまニコニコ動画には歌い手っていうポジションの人がいます。
歌い手というのは、ニコニコ動画とかを拠点に、ボーカロイド楽曲とかをカバーして人間の声で歌うことを中心に活動している人のことです。
そしていま人気のある歌い手はだいたいみんな『ゴーストルール』をカバーした感あるのでした。
ということは、たくさんの歌い手の特徴が、この曲のカバーを比較することでわかってくるってことです。最高だね!
今回は再生数の多い歌い手さんの動画を10個選んできました。やったぁ! オススメの聴くべきシチュエーションも書いたよ!


この曲でいちばん再生数が多かったのがまふまふさんによる歌ってみたでした。
まふまふさんは男性なのですが、とにかく非常に高くてかわいい声が特徴的です。なんていうか、少年が背伸びして歌っているみたいな感覚があるんです。だいすき。
natalie.mu
音楽ライターの柴那典(id:shiba-710)さんが名前を挙げててびっくりしました。


投稿動画のタイトルに「☪」のマークを入れるのが天月さん。
この方は特に声が高いというわけではない(ふつうのJ-POPぐらい)ので、原曲からキー変更で歌われています。
セカオワの深瀬さんみたいな甘い声がとってもかわいいです☆


次に再生が多かったのがそらるさん。ニコニコ動画では活動歴がかなり長いはず。
声質が違うまふまふさんと仲良しで、よく一緒に歌っていますが今回はそれぞれソロで歌ってみたやってました。
このおふたりはAfter the Rainという名前のグループで活動しています。


続いては灯油さん。この中ではいちばん声に癖がなくて、聴きやすい感じに思います。でもすっごく声が高くて、この曲も原キーで歌っていらっしゃいます。



あらきさんはこの曲が自己ベストの再生数みたい。
攻撃的でロックな感じは、ここまでのひとたちとはちょっと違っててすっごくかっこいいです。2番でメロをすこしアレンジしてるのも似合ってていいよね! コールアンドレスポンス、めっちゃライブ感あります。


この中では唯一の女性があやぽんずさん。かわいい感じにも歌えるひとなんですけど、この曲はめっちゃかっこいい感じに歌い上げてくれます。最高だな! しかも本家の動画のアップのわずか9日後とかすげぇよマジで。


Souさんのこの曲の歌ってみたは、声のエフェクト?がちょっと面白い感じ。
暑苦しい感じになりがちな曲が、タイトル通りさらっとした爽快感に包まれてよい感じです。



luzさん! 女子中学生が「ルスくん」っていってたらこの人です! 人気人気!!
この中ではいちばんキーが低い?のかな?? そのぶん無理のない発声とかっこよさにステータスを振り分けた感じの歌ってみたです。2分ちょうどぐらいの「ネェ」がかっこよいです♥


この曲の歌ってみたの中ではいちばん好きかも!っていうのがこの赤ティンさんのやつです。冒頭のデスボイスが無駄にかっこいい! あと、ラスサビ前のアレンジが実によいです。暑苦しい感じのカバーだけど、それがこの曲に似合うよね。

オマケ
tmbox.net
フルが上がってるわけじゃないけど、柊南さんというかたの歌ってみたです。間奏の「ぱーぱぴぱぴぱー」が劇的にかわいいのでぜひ聴いてくれ…。かわいい路線の歌ってみた枠が、まだ空いてると思うんだ…。



というわけで、DECO*27 feat.初音ミク『ゴーストルール』でした。
今回の前半の音節とかモーラとかの話は、下記のURLでよく出てきます。
lyricstheory.com
わたしはまだまだお勉強中だけど、もっと音韻論の話ができるようになりたいぞ…。
あと、
hacosato.hatenablog.com
この曲の話をしたときにも、似たような話題になったんでした。ほんとにいい曲。
hacosato.hatenablog.com
この曲のときにも、モーラの話をしたんでした。まだ稚拙ですね。
お粗末さまでした。

今回の参考書籍は以下の通りです。

日本語音声学入門

日本語音声学入門

音声学と音韻論の本です。モーラとか音節とか、あと無声化母音とかの話はここを典拠にしています。どんなジャンルでもしっかりした入門書ってありがたいです…。みんなありがとう…。
これを読むと、日本語で普段しゃべってる言葉も発音記号ですこしは表記することができるようになります。
いままでしゃべってて気づかなかったけど、いわれてみたら確かに!みたいなことだらけで楽しいよ!
音楽のリズム構造―新訳

音楽のリズム構造―新訳

こちらはジャンルでいうと音楽の話。音楽の理論っぽい専門書ってはじめて読みました。これは辛い…。素養がないと…。
でもリズムのことを理論的に考えるならぜったい外せない予感が読んでてありありと感じられます。最初の数ページはほんとに明瞭でわかりやすい定義から入るので、たぶんたくさん載ってる楽譜をきちんと演奏して、自分の耳で全曲確認しながら進めればぜったい身になるんだろうなぁって思います。
クラシックの素養のあるひとと一緒に輪読したいよ〜〜。

次回は桜にかんする曲の話をしたいな。
16/04/10誤字を修正しました。

*1:斎藤 純男『日本語音声学入門』