5日と20日は歌詞と遊ぼう。

毎月5日と20日に、J-POPやボカロ曲などの歌詞を読んだり、統計したりしています。twitterは@hacosato。

新生活、飛んで火に入る春の虫 - aiko『カブトムシ』


aiko『カブトムシ』歌詞(歌ネットへリンク)

現在と未来

今回はaiko『カブトムシ』の歌詞を読んだんですけど。
読んで思ったことがあります。
この曲は、現在と未来が対になっているってことです。
たとえば、最初の行。

悩んでる体が熱くて 指先は凍える程冷たい
この部分は、現在のことを歌っています。身体のことを歌っているからです。
身体のことは、現在のことと強く結びつきます。
たとえばノドの調子のことを考えます。
ふだん健康なとき、私たちはノドの調子のことなんて考えません。けれど、風邪をひいたりして調子が悪くなると、とたんに気になってきます。ノドのいがいがが意識に上って仕方がなくなります。
自分の身体のリアルタイムは意識に上りやすんだ、って思います。
この歌詞もそれと同じです。「体が熱くて指先が冷たい」と歌うこの部分は、現在に対して自覚的です。

現在を描いた部分はほかにもあります。

たとえば、

息を止めて見つめる先には長いまつげが揺れてる
この部分には、「息を止めて」「見つめる」「まつ毛」と、身体に関する語がたくさんあります。だから、現在に関することが描かれていると推察できます。
それに、揺れ「てる」って書いてある時点で現在っぽさが強まっています。

他方で、この曲には遠い未来のこともたくさん描かれています。

あなたが死んでしまって あたしもどんどん年老いて
想像つかないくらいよ そう 今が何より大切で
「あなた」が死んでしまったり、「あたし」が年老いてしまったりしている、この部分は未来のことです。

生涯忘れることはないでしょう
生涯のことが描かれているここも未来のことです。

現在のことに触れたときには必ず身体のことがいっしょでした。でも未来のことはふわっとしています。身体のことは出てきません。
この歌詞にはそういう特徴があります。

これを踏まえると、おもしろいことがわかります。

鼻先をくすぐる春 リンと立つのは空の青い夏
袖を風が過ぎるは秋中 そう 気が付けば真横を通る冬
この部分を見ると、いま舞台になっているのが春夏秋冬のどれなのかがはっきりします。
「春」のシーンにだけ「鼻先をくすぐる」という身体についての言葉があるからです。
つまりここから、この曲の舞台がわかります。
この曲の舞台は春みたいです。ちょうどいまなんだ!

勧誘と抵抗

ところでこの曲、ただのラブソングではないと思います。
この曲は、勧誘の曲だと思うんです。
春は新生活のシーズン。新生活を始める人は、いろんな勧誘にさらされます。
たとえば保険とか。
この曲は、生命保険の勧誘の曲だとしましょう。そしたら、おもしろいから。

悩んでる体が熱くて 指先は凍える程冷たい
主人公は契約書へのサインを迫られています。
必要なのはわかるけど…。
主人公は悩んでいます。だから体が熱くて、逆に手汗をかいて、指先は冷たいのですよ!

"どうした はやく言ってしまえ"そう言われてもあたしは弱い
勧誘員はサインを迫ります。「はやく書いてしまえ」って。

あなたが死んでしまって あたしもどんどん年老いて
想像つかないくらいよ そう 今が何より大切で
主人公は今を大切に生きてきました。
だれかが死んでしまって死亡保険金を受け取るとか、自分が年老いて養老保険のお世話になるとか「想像つかないくらい」なのです。

甘い匂いに誘われたあたしはかぶとむし
主人公は「飛んで火に入る夏の虫」のようです。
甘い匂いに誘われて契約してしまった保険が、本当に自分に合っているのかはわかりません。

少し癖のあるあなたの声 耳を傾け
深い安らぎ酔いしれるあたしはかぶとむし
でも、主人公は勧誘員の話に耳を傾け、契約書にサインをしてしまったのでした。
深い安らぎが主人公を包みます。これで将来も安心! しつこい勧誘から解放されて安堵だね!

生涯忘れることはないでしょう
生涯忘れないのは「あたし」ではありません。
生涯忘れないのは保険です。
契約してしまった終身保険が、主人公のことを、もう生涯忘れてはくれないのです。



ということで、aiko『カブトムシ』でした。
新社会人になると保険の勧誘を受けることが多いって聞きます。自分に合った商品を見極められる知識を身につけたいー!
さてaikoの歌詞には、身体に関する語がたくさんあってすごくスキです。わけても、この曲の歌詞の身体っぽさはすばらしいです大好き。
ほかにaikoの曲は、この2曲を考えたことがあります。どちらも昔話にかこつけた読みができて楽しかった!
桜の木の下

桜の木の下

まとめ?(通常盤)

まとめ?(通常盤)

次回はヒトリエ『るらるら』読みたい気持ちです。