クマムシ『あったかいんだからぁ♪』歌詞(歌ネットへリンク)
今日はクマムシ『あったかいんだからぁ♪』の歌詞を読みます。
特別なスープをあなたにあげるって感じの歌詞。
あったかいんだからぁ♪
瞳の奥にあるわたしの大きな野望
「長谷川(ヒゲ坊主の方)が温かく感じるものを言った後に「あったかいんだからぁ♪」とつなげるように歌い、佐藤がそれに突っ込みを入れるという形で使われている」*1ところがおもしろさなのですが、この曲はおもしろいだけではありません。
おもしろさを引き立てるような、緻密な工夫がたくさんあります。
今日はそんな工夫を楽しんでいこうと思います。
ひとつめ(音韻論)
私の父もテレビでこのネタを見たみたい。折に触れて歌っています。
でもその歌が、元ネタとは少し違います。
父のはこうです。
本当は、こんな感じ。
父、違うから…!!
この曲の一番いいところは、一番高くなっている音の部分です。
本来「かいん」っていう複雑な音が乗りますが、父バージョンでは「い」が乗るにすぎません。これではいかん。良さが生かしきれてないよ!
この「かいん」には、いろんな話題があります。
まず子音の部分。「k」の音に、かさかさした息が混ざって発音されています。
これは子音の有気化というものだろうと思います。息を混ぜてこの部分を歌うことによって、「あったかいんだからぁ♪」のあったかさが歌い方から伝わってきます。歌い方で内容を表現できるのです。すごいこと。
また、母音もおもしろいです。
「あったかい」の最後の「あい」の部分、二重母音っぽい感じで発音されています。
ふつう、日本語には二重母音はないとされています。日本語で母音が連続するときには、母音接続という扱いになります。各母音は1拍の長さを持ったままです。
でもこの歌詞では「あい」の音が1つの音符に乗ります。ほかは大体1拍が1つの音符に乗るのに、ここだけは1つの音符に2つの拍分が乗ります。そうすることによって、リズムに変化が生まれます。
しかも『あったかいんだからぁ♪』の歌詞の中では、「あい」の音はそのまま鼻に抜けて、「ん」の音も同時に乗っかります。
この子音と母音が合わさって、晴れて「かいん」という発音になるのです。拗音のないひらがな3文字が、不自然さを感じさせずにひとつの音に乗るってところにトピックがあるのですよ!
これ上記の記事でいう「半シラブル化」に近いかもしれません。
これが、
- ひとつの音で、
- しかもサビの一番高いところで、
- しかもファルセットで、
- しかも変なフリ付きで
歌うから、この曲はおもしろいのです♪ 残念な父バージョンと比べてみると、それがとてもはっきりします。
父、頼むから気付いてくれ。
曲全体の構成
さらに、この歌詞には曲全体としてみたときの構成の妙があります。
この歌詞に繰り返し出てくる「あったかいんだからぁ♪」には、それぞれその位置に存在する意義があるって思ったのです。
それを確かめるために、この歌詞に出てくる「あったかいんだからぁ♪」のひとつひとつに、名前をつけてみることにします。
特別なスープをあなたにあげる最初の「あったかいんだからぁ♪」はこういう感じです。スープがあったかいようなので、この「あったかいんだからぁ♪」を「スープ」と名づけます。
あったかいんだからぁ♪
瞳の奥にあるわたしの大きな野望
ワクワクのリズムをあなたにあげるこの部分は「ワクワクのリズム」があったかいようなので、「ワクワク」と名づけました。
あったかいんだからぁ♪
いつまでもこのままワクワクさせていてね
先輩上司社長に頭なでられた「頭なでられた」ことに起因するあったかさなので、「さすり」と名づけました。
あったかいんだからぁ♪
お返しは"キラキラハピネスぎゃんかわスマイル"
また会おうねってつないだこの手と手が「手と手」を「つないだ」ことに起因するあったかさなので、「接触」と名づけました。
あったかいんだからぁ♪
いつまでもこのまま離してあげないのよ
なんだか単調です。でも、この単調さに意味があります。
なぜなら、次から変化が訪れるからです。変化は不変あってこそですから。
次、
みんなが思ってるわたしの可愛さYES!なんと! 「あったかいんだからぁ♪」じゃなくて「止まらないんだからぁ♪」になりました。
止まらないんだからぁ♪
いつまでもこのままわたしを楽しませて
退屈になってきたのを見計らっての演出!
でもこの曲は『あったかいんだからぁ♪』というタイトルなので、このキメフレーズを変えたのはここだけです。
確かに、このままどんどんフレーズを変えてしまっては、収拾がつかなくなってしまいます。
…とはいえ、同じネタばかり繰り返しても飽きてしまいます。この次はどういう変化をつけるのがいいでしょうか。
お風呂上がりのアイスの最初の一口・・・って思っていたときに来たのがコレでした。
「歌わない」という選択肢。
これは、以前このブログでも考えた「みすずメソッド」に他なりません!
みすずメソッドというのは、みすず学苑のCMの最後に見られる手口だ。
このCM、最後に「怒涛の合格 みすず学苑 / 怒涛の合格 みすず学苑 / 怒涛の合格」って言っているのがわかるだろうか。
我々は3回も似たようなことを聞くので、途中でルールがわかるようになるのだ。
そして、いつしかいっしょに口ずさんでしまう…。
しかし! それが、それこそが奴らの手口だ! それは最後に裏切られるのだから。
CMでは最後、「怒涛の合格」までしか言わない。我々はひとりで勝手に「みすず学苑」とつぶやいてしまうのだ。
こうして我々はまんまと、みすず学苑の策略にハマってしまう。
これが、恐るべきみすずメソッドの全貌だ!
↑この曲、みすずメソッドをめっちゃ巧みに使っていて最高。
さて話を元に戻します。
お風呂上がりのアイスの最初の一口・・・この部分には、みすずメソッドによって隠蔽された「あったかいんだからぁ♪」が隠されています。
本来なら「お風呂上がりのアイスの最初の一口」はあったかいのではなくて冷たくてひんやりしていて、だからこそアイスがおいしいタイミングなのですが、それをわざわざ「あったかいんだからぁ♪」と誤って言うところがおもしろいんですよね。
で、しかもこの部分はもうネタとして有名になっているので、曲にするにあたってはみすずメソッドを適用するという、もうひとひねりが加わってさらに味わいが増しています。策士です。
この「あったかいんだからぁ♪」にも名前をつけておきます。舌の上の感覚の話なので名前は「接触」としましょう。
さっきも接触は出てきていました。できるだけ、似たようなものはひとつにまとめて、同じくくりにしておいたほうが後々便利そうだと考えました。
そうすると、この次あたりからだんだんすごいことが起こると気づかされます。
わたしのスパイスであったかくしてあげるこの部分は「摩擦で指先あったかいんだからぁ♪」なので「さすり」だと言えます。
愛をスススス恋をスススス
摩擦で指先あったかいんだからぁ♪
「さすり」も前に出てきました。なんだか似ています。
涙があふれて手のひらに落ちたよあったかいんだからぁ♪この部分は、涙とワクワクが対の関係になっています。だからこの部分は「ワクワク」のあったたかさです。
いつまでも泣いてちゃワクワクできないでしょ
「ワクワク」も前に出ました。
特別なスープをあなたにあげるそして最後の蓮。この部分は「スープ」です。一番有名な部分に、また戻ってきたのです。
あったかいんだからぁ♪
ここまで出てきたあったかさを、順に記述するとこういう感じになります。
こういう感じ。名前が対称に配置されていて、入れ子になっているのがはっきりわかります。
前半は話がどんどん前に進んでいっていて、逆に後半は話がどんどん元に戻っています。
そして、最後にスープの話に戻ったとき、曲の全体が終わります。
一般に、話が元に戻ると、話は終わった感じがしてとても落ち着きがよくなります。月から来たかぐや姫は月に戻って終わるし、鬼ヶ島に行った桃太郎は、元の村に戻ることで終わります。
スープに始まる物語は、スープに戻ることで終わった感じが出せるのです。
そして最後に。
瞳に映ってるあなたと過ごす時間こういう2行で、この曲は本当に終わります。
あったかいんだからぁ♪
この曲のあったかいものは、アイスを除けばすべて「あなた」と「わたし」のふたりの間のあったかさでできています。
それを確認して終わるこの全体の構成、とてもきれいにできているってことがわかるのでした。
ということで、クマムシ『あったかいんだからぁ♪』でした。
今回は前半で、音韻論の知見を援用しました。音韻論は最近とみに耳にする機会が増えた気がしていて、私の中ではホットなジャンルです。
たとえば最近あちこちで聞く「ラッスンゴレライ」に関しても、
これは「ら行」が歯茎をはじく音だから。しかも3回も入ってる。
私は言語学全般をさらった入門書を読んだことがある程度なので、音韻論に関してはきちんと学ばなければならない思いがあります。
この本を借りてきました。音韻のお勉強の嚆矢に、音声学の入門書を読んでみます♪ pic.twitter.com/PUp9KRXlJv
— ハコサト📦 (@hacosato) 2015年3月3日
学ぶしかない。https://itunes.apple.com/jp/album/attakaindakara-a/id955374032?i=955374038&uo=4&at=10lrtS次回は、嵐『Sakura』の歌詞を考えます。