5日と20日は歌詞と遊ぼう。

歌詞を読み、統計したりしています。

郷愁と平和のシンボル?-YUKI『ビスケット』

こんにちは。先日バレンタインだったのでおいしそうな曲を取り上げようと思いました。そこで今回はYUKI『ビスケット』です。

ポケットに忍ばせた 甘いビスケット
あなたに半分だけあげるよ
始めたばかりの つらいダイエット
ううん その他うやむやのせいにして
私があなたを好きな理由
100個ぐらい 正座して ちゃんと言えるから
ぶかぶかで青い 背の高い あなたのセーターを掴んだ
想いは強い! 鼓動よ届け!!
歌詞はこんな感じ。かわいすぎ!ヽ(*´∀`*)ノ
でも不思議なところもあります。タイトルにもなっている「ビスケット」、はんぶんこするのはどうしてでしょうか? 1つまるまるだと太っちゃうから?
太るからではありません。私は違う理由があると思いました。そんなことについて、今回は考えていきたいと思います。
歌詞(歌ネットへリンク)

かわいさの源泉

いまさらなにを、という感じですが、この曲はとにかくかわいいです。
たとえば、歌詞の冒頭を引用します。

いつだって 逢いたくて 涙の海でおぼれた
抜けだして 逢いに来て 月を味方につけて
1行めの「逢いたくて」は主人公が主語です。2行めの「逢いに来て」は「あなた」が主語です。ここで、主人公と「あなた」がすれ違い、満足に会うことも叶わない状況が描かれています。
で、ここへきて、続く3行めがこうです。
強がって 絡まって 困らせてる ごめんね
たぶん主人公は久しぶりに大好きな「あなた」に会えて、舞い上がっているんでしょう。だから主人公は強がったり、絡まったりして、あなたのことを困らせています。困らせていることをわかっているのに、どうしようもなくて「ごめんね」と謝るばかりの主人公です。こんなに恋に不器用とか、高校生かよ!って感じ。
あと、この主人公はツンデレです。サビを見ながら確認しましょう。
ポケットに忍ばせた 甘いビスケット
あなたに半分だけあげるよ
始めたばかりの つらいダイエット
ううん その他うやむやのせいにして
冒頭でも引用した部分です。主人公はビスケットを「あなた」に半分あげる理由を「つらいダイエット」や「その他うやむやのせい」にしています。本当にそれが理由でしょうか。
そうではありません。ここはやっぱり、主人公が「あなた」へ好意を持っているからだと私は思います。ふつうはそんなに好きでもない人とビスケットを分け合ったりしません。主人公への好意を隠して「つらいダイエット」や「その他うやむやのせい」にしてビスケットを手渡す主人公はツンデレでいうと「ツン」の状態です。
でも、この直後に「デレ」が来ます。続く直後を引用しましょう。
私があなたを好きな理由
100個ぐらい 正座して ちゃんと言えるから
ぶかぶかで青い 背の高い あなたのセーターを掴んだ
想いは強い! 鼓動よ届け!!
主人公は「あなたを好きな理由」をもまくしたてたりします。数が100と極端に多かったり、正座してみたりと、不思議な味付けはきっと照れ隠し。でも「デレ」ですよね。ツンからのデレの切り替わりが鮮やかです。
ベタなツンデレキャラの法則 - chakuwiki
私はここを見ながら、ツンデレのことを考えました。ここと見比べた感じ『ビスケット』の主人公の振る舞いは、ベタなツンデレとはひと味違うように思えます。ふつうのツンデレはもっとずっと「ツン」が多い感じみたいです。
今回の主人公はすごくかわいいしキャラ立ってると思うんですが、こういうキャラの一般的な総称はないようです…。あったら教えてください。

舞台の背景は…

ところで私は、この曲の舞台背景はふつうではないと考えました。
私はこの曲、戦時中が舞台だと思っています。
冒頭を再び引用します。

いつだって 逢いたくて 涙の海でおぼれた
抜けだして 逢いに来て 月を味方につけて
どうして主人公は「あなた」と会えないのでしょうか。
どうして「あなた」は主人公と会うために「抜け出して」くる必要があるのでしょうか。

その答えは兵役だと思います。
「あなた」は兵士として、海の向こうの遠く離れた場所で軍務についています。一時帰郷の日が来るまで、主人公は手紙を送ったり、ぼんやり思いにふけったりする以外に、することがありません。
「抜け出して」とあるのは兵役のことなのだと思います。月明かりを頼りにして、兵舎から抜け出してよ、って思いの表れなのでしょう。
そして、帰郷の日が来ます。
ポケットに忍ばせた 甘いビスケット
あなたに半分だけあげるよ
始めたばかりの つらいダイエット
ううん その他うやむやのせいにして
戦時中だと過程すれば、ビスケットの疑問も解けていきます。ポケットに忍ばせないといけないのは、ビスケットが貴重なものだからです。「あなた」はビスケットを見て、驚くでしょう。こんなに貴重なものを、と。戦時中なら主人公は満足にものを口にできていないかもしれません。優しい「あなた」は
「僕は大丈夫だから君が食べなよ」
って言うでしょう。でも主人公は固辞します。そして、
「ダイエットしてるから。だからはんぶんこしよ?」
とかって言うのですようおおおおおお! かわいいいいい!!ヽ(*´∀`*)ノ
生きることは食べることです。食べ物を分け合うことは人生を分け合うことと通じるなぁって私は思います。
さらに戦時中だとすると、平和だった昔への郷愁も見えてきます。
ぶかぶかで青い 背の高い あなたのセーターを掴んだ
セーターは、高級品です。セーターの輸入比率を調べてみました。

品目 輸入比率
セーター類 98.7%

出典は東京ニットファッション工業組合。2006年のデータです。戦争が始まって仮に輸入がすべて止まったとしたら、国内ではセーターを作ることはほぼできません。セーターは平和の象徴なのです。
同様に、ビスケットも調べてみました。主要な材料に分けて、自給率を出してみます。

品目 自給率
小麦 11%
鶏卵 95%
牛乳及び乳製品 65%
砂糖類 26%
植物油脂 3%

出典はe-Stat。2011年度のデータです。
ちょっとくくりが大きすぎるところもありますが、この結論は出していいと思います。国産のビスケットは、たぶん非常に難しいです。
おそらく輸入がとだえれば、ビスケットも高級品になるでしょう。ふたりにとっては、ビスケットも平和の味です。
主人公は久しぶりに「あなた」に会えて、ビスケットを分け合ったり、セーターをつかんだりしています。味覚も触覚も、手紙なんかでは伝わらないものです。ふたりはそんな感覚を味わっています。そこにあるのは、どちらも平和のシンボルです。
最後に、間奏明けのブリッジの部分を引用しましょう。

交わした約束 危うくて 未来は誰も解らないなら
火照った指で 探りあてて 体に印を 刻もうよ
ベタベタな妄想でいいなら「交わした約束」とは「この戦争が終わったら結婚するんだ」ってやつなのだと思います。でも、未来はわかりません。だから主人公たちは、また離ればなれになる前に「体に印を刻もう」とします。印っていうのは、まぁ、つまりきっとアレのことです。察してください。
彼が生還できたかどうかは、この歌詞ではわかりません。ただ「この戦争が終わったら結婚するんだ」という台詞は有名なフラグであることは、意識しちゃいますよね。私だって、彼がちゃんと戻ってこられたらいいなぁと思います。
でもそれは、難しいことなのかもしれません。

というわけで、YUKI『ビスケット』でした。
YUKIは以前にも『COSMIC BOX』『ひみつ』『うれしくって抱きあうよ』を読んだことがあり、今回で4回めです。
YUKIの歌詞とは相性がいいのか、毎回気持ちのいい読みができることが多い印象があります。今回も例に漏れず、気持ちよく読めてよかったです。
今後はこういう風に読める人をどんどん増やしていけたらいいなぁと思います。難しい!
https://itunes.apple.com/jp/album/bisuketto/id569859981?i=569860427&uo=4&at=10lrtS
↑ここでは途中までしか聞けませんが、クリックするとサビとかまで聞けます! シングルコレクションが24分ぶんもきけますよー♪
次回予告:次回は『恋の2-4-11』を読みたいです。艦これ界隈わかんなすぎるので教えてもらいたい!(」゜Д゜)」<おしえてーーー!