5日と20日は歌詞と遊ぼう。

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オリンピックなのに、大事なのは結果じゃない-『GIFT』

こんにちは。
もうすぐオリンピックです。なので今日は、Mr.Children『GIFT』の歌詞を読んでみます。2008年北京オリンピックNHKのテーマソングです。

一番きれいな色ってなんだろう?
一番ひかってるものってなんだろう?
僕は探していた 最高のGIFTを
君が喜んだ姿をイメージしながら
冒頭の歌詞はこんな感じです。
「一番きれいな色ってなんだろう?」という問いは、オリンピックの曲としては一見不似合いです。なぜなら、オリンピックにおいて「一番きれいな色」はふつう金色だからです。
しかしこの曲の主人公は、「一番きれいな色」を、ゼロからスタートして探そうとしています。それは先入観にとらわれることのない、とても自由な態度です。
でも、主人公は曲の最後に、自分が別の先入観にとらわれていたのだと気づきました。私はそんな風に思います。
今回はそんなことを考えていきます。
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歌詞(歌ネットへリンク)

きれいなものの話

まず、1番を取り上げます。1番は1連から4連です。
1連の冒頭は、このような歌詞です。

一番きれいな色ってなんだろう?
一番ひかってるものってなんだろう?
この問いを踏まえて『GIFT』には、1番に「一番きれいな色」の話、2番に「一番ひかってるもの」が出てきます。
私たちもそれに従って、1番の「一番きれいな色」から順に考えていくことにしましょう。
先ほど引用した部分の続きはこうなっています。
僕は探していた 最高のGIFTを
君が喜んだ姿をイメージしながら
主人公が「一番きれいな色」を探している理由は「君」に渡すためだとわかります。
続いて、Bメロを見てみます。
長い間 君に渡したくて
強く握り締めていたから
もうグジャグジャになって 色は変わり果て
お世辞にもきれいとは言えないけど
ここで、渡そうとしているものは、実はすでに主人公の手の中にあることが明かされます。でもそれは、「お世辞にもきれいとは言えない」状態になってしまっています。迷いすぎてしまったのです。
1番の最後に、サビを引用します。
君に似合う色探して やさしい名前をつけたなら
ほら 一番きれいな色
今 君に贈るよ
ここは、主人公がその「お世辞にもきれいとは言えない」ものを「君」に贈るシーンです。「いちばんきれいな色」を探していたはずなのに、結局「お世辞にもきれいとは言えない」ものを選んでしまった、という齟齬がここにはあります。
私は、ここがこの歌詞のポイントになる個所だと思いました。
主人公は冒頭では、はじめからきれいなもの、最初からきれいに作られているもの、を求めていました。しかし、途中であることに気づきました。それは、手持ちのものが「一番きれいな色」をした見た目じゃなくても「一番きれいな色」と呼ぶことはできる、ということです。
表にまとめると以下のようになります。

Aメロ 主人公は、最初から「一番きれいな色」をしたものを探している
Bメロ 本当はずっと渡したかった「お世辞にもきれいとは言えない」ものに思い至る
サビ 主人公は「お世辞にもきれいとは言えない」ものでも「一番きれいな色」と呼べることに気づく

主人公はAメロの時点では、最初からきれいなものを探していました。けれど、迷いの過程の中で、「一番きれいなもの」ではなく「君に似合う色」こそがGIFTにふさわしいのだと考えるようになります。「君に似合う色」に名前をつければ、それがその場の「一番きれいな色」になるからです。結果としてきれいなものより、きれいになる過程を大事にしているといえますね。この結果過程の話はあとでもまた出てきます。

「一番きれいな色」という結果が大事なのではありません。「一番きれいな色」になるまでの過程に「きれい」というものが宿っているのだと、主人公は気づいたんですね!

一番ひかっている色

今度は2番を取り上げます。2番は5連から7連です。
2番の冒頭を引用します。

地平線の先に辿り着いても
新しい地平線が広がるだけ
「もうやめにしようか?」 自分の胸に聞くと
「まだ歩き続けたい」と返事が聞こえたよ
「地平線」は、光と影の境界線です。主人公は「地平線の先」に「一番ひかってるもの」を追い求めています。それは「一番きれいな色」と同じように、見果てぬ夢です。主人公がいちばん欲しがっているものです。
けれど「一番ひかってる色」を手にするのは簡単なことではありません。どんなに歩いていっても「新しい地平線が広がるだけ」です。
主人公は、自分のいまいる場所には光がないと思っています。だから光を求めています。けれど実際には、主人公は光に包まれた場所にいます。この時点では、主人公はまだそれに気づいていません。
主人公がそれに気づくのは、サビに入ってからです。
果てしない旅路の果てに
『選ばれる者』とは誰?
たとえ僕じゃなくたって
それでもまた走っていく 走っていくよ
サビの前半を引用しました。「果てしない旅路」は、Aメロに出てきた「地平線の先に辿り着いても/新しい地平線が広がるだけ」と呼応します。ですので、両者は同じことを描いているシーンだということがわかります。
主人公はそこで、自分が選ばれることがなくても「それでもまた走っていく」と歌っています。「選ばれる」とは結果、「走っていく」は過程です。1番と同じように、ここでも結果過程の二項対立が出てきます。結果よりも過程を大事にするという構図も同じです。

  結果 過程
1番

一番ひかってるものってなんだろう

(最初から結果としてひかってるものを探している)

君に似合う色探して やさしい名前をつけたなら

(探す過程で見つけたものに「一番ひかってる色」と名付ける)

2番

果てしない旅路の果てに『選ばれる者』とは誰?

結果として選ばれる者に興味がある)

それでもまた走っていく 走っていくよ

(走りつづけるという過程に意義を見出す)

サビの後半を引用します。

降り注ぐ日差しがあって
だからこそ日陰もあって
そのすべてが意味を持って
互いを讃えているのなら
もうどんな場所にいても
光を感じれるよ
主人公は2番の最初、地平線の先に光を追い求めていました。けれど2番の最後には「もうどんな場所にいても光を感じれるよ」と歌うようになります。
主人公は本当はずっと光に包まれていたのに、冒頭の時点ではそれに気づいていませんでした。でも最後にはそれに気づくようになります。

それは、主人公が1番のときに感じていた気づきと、とてもよく似ています。
1番では、主人公はきれいなものを探していました。でも途中で、最初からきれいなものじゃなくたって、きれいと呼ばれる資格はあると気づいたのでした。
2番では、主人公は光を探していました。でも途中で、光は自分の周りにずっとあったのだと気づいたのでした。
主人公はいつでも、身近なことを見落としがちです。でも何度も、見落とした何かを再発見し続けます。あなたにだってできるはずだよ。主人公の行動は、そんなメッセージを運んでくれます。



というわけで、Mr.Children『GIFT』でした。
ここまで触れませんでしたが、この曲は構成もとてもきれいにできています。曲の最初の連はこうでした。
一番きれいな色ってなんだろう?
一番ひかってるものってなんだろう?
僕は探していた 最高のGIFTを
最後の連では、こうなります。
一番きれいな色ってなんだろう?
一番ひかってるものってなんだろう?
僕は抱きしめる 君がくれたGIFTを
最初はGIFTを与えるものだと主人公は考えていました。けれど「きれいな色」も「ひかってるもの」も身近なところにあると気づいた主人公は、GIFTをもらうものだとも気づくようになります。この曲はこうして、主人公の目から鱗がどんどん落ちていくような曲だなぁと私は感じています。
最初の連と最後の連は、とてもよく似ています。でもこんな風に鱗が落ちているから、本当はよく似ているようで、ぜんぜん違うのですね。
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次回予告:次回はYUKI『ビスケット』を取り上げたいと思います。