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5日と20日は歌詞と遊ぼう。

毎月5日と20日に、J-POPやボカロ曲などの歌詞を読んだり、統計したりしています。twitterは@hacosato。

CHAGE and ASKA『SAY YES』

歌詞を読む

YESに届かない「SAY YES」
こんにちは。
TREE
今回は、ずっと前にラ王の泉さんにリクいただいた、CHAGE and ASKA『SAY YES』を読みます。やっとなんとかカタチになるレベルに読みがまとまりました!
さて『SAY YES』は、

愛には愛で感じ合おうよ
硝子ケースに並ばないように

何度も言うよ 残さず言うよ
君があふれてる

こんなサビの有名な曲です。でもなんだかふわふわしていて、手触りのないフレーズばかり。「硝子ケース」?「君があふれてる」? この不思議な感じの正体をちゃんとつかむことができるでしょうか。
それを考えてみたいと思います。
歌詞はこちら→http://music.goo.ne.jp/lyric/LYRUTND2774/index.html
構成はこちら→A1-A2-B-サビ-サビ-A1-A2-B-サビ-サビ-C-サビ-サビ

言葉vs心

実は私、この歌詞は結構な期間に渡って、何度かに分けて読んでいたのです。だってなかなかうまく読めないんだもん。
難しいのには理由があります。この歌詞の場合は、とにかく手触りのある言葉がとても少ないのです。THE BLUE HEARTS『情熱の薔薇』とかでやったように、歌詞の中から名詞だけを取り出してみます。

物、すべて、君、僕、愛、構え、嘘、ワガママ、僕、恋人、フレイズ、ふたり、夢、愛、愛、硝子ケース、君
1番だけやってみました。意味分かんないよ!
ここに出てくる言葉、手に触れられないものがほとんどなのです。抽象名詞か代名詞ばっかり! 間違いなくだれでも手に触れられるものって「硝子ケース」ぐらいだよ!(しかも「硝子ケースに並ばないように」って意味分かんないし
これはよほどの手がかりがないと、シチュエーションも読めないし、メッセージも分かりません。曲によっては名詞を抜き出すだけで、だいたいどんな内容だか分かることもあるのに!
というわけで、手がかりを探して参りました。今回はここでいこうと思います。

言葉は心を越えない
とても伝えたがるけど 心に勝てない

2番のAメロです。1行めで「言葉」「心」が比較されています。越えないんだから、

言葉≦心
という不等式を立てることができます。今回は「言葉」「心」に注目して、歌詞を読んでみようと思います。この歌詞の内容の中に「言葉」「心」の言い換えを探していってみます。

するとあることがわかります。この歌詞、ほとんどの連で連ごとに「言葉」「心」のどちらかにフォーカスされているのです。たとえば、7連を引用してみます。

君に逢いたくて 逢えなくて 寂しい夜
星の屋根に守られて 恋人の切なさ知った

この連では「君に逢いたくて」という主人公の心情が描かれているみたいです。だから7連は「心」の連です。

このままふたりで朝を迎えて
いつまでも暮らさないか

この連は全体が1つの疑問文です。疑問“文”なので「言葉」です。
というのはちょっとこじつけですが、「暮らさないか?」と問われたら「暮らす」なり「暮らさない」なりの応答が求められているわけで、根底にあるのは言葉のやりとりです。だからこの連は「言葉」に分類されることにします。
続くのはサビです。

愛には愛で感じ合おうよ
恋の手触り消えないように

この連は「愛」を「感じ合おう」と歌われたりしています。「恋」という単語も入っています。だからここは「心」に属します。
続いてサビ後半。

何度も言うよ 君は確かに
僕を愛してる

これは主人公が「君は確かに僕を愛してる」と言う部分なのだと私は思いました。言うってことがメインになる連なので、ここはやはり「言葉」の連です。
こんな感じで分類していくと、2番は「言葉」の連と「心」の連が交互に現れることが分かります。1番はどちらにも分類しがたい連がいくつかある(最初の連とか)のですが、それでもこの曲のだいたいの連が「言葉」「心」に場合分けできるのはいいと思います。
この歌詞では「心」「言葉」にきれいに塗りわけてあるわけです。

そして主人公は、約束や説得とかよりも、心と心のつながりのほうが大事だと思っていそうです。なぜなら、すでに引用したように、

言葉は心を越えない

からです。「このままふたりでいつまでも暮らさないか?」という約束や、「君は僕を愛してる」という説得(?)よりも、愛には愛で感じ合うような、心と心のつながりのほうが大切なわけです。
でも、そうすると気になることがあります。タイトルです。
この曲のタイトルは『SAY YES』でした。直訳するなら、「はい」と言え、って感じ。「言う」のならこの2単語は「言葉」に属するはず。そして「言葉」「心」を越えないはず。…あれ?
この曲のタイトルは「はい」と言え、みたいな意味だけど、この曲は言葉に価値を見いだしてないのです。「はい」って言ってほしいけど、言ってもムダだよ、みたいなスタンスです。
ぇ、どういうこと?

主人公vs警察?

そんな不思議さを踏まえて、私は妄想しました。
主人公は「君」に嘘をついてもらいたいと思ってるんじゃないかな、と。
主人公は「君」の心が自分から離れつつあるのを感じています。だから「このままふたりで夢をそろえて/何げなく暮らさないか」だの「このままふたりで朝を迎えて/いつまでも暮らさないか」だの言い「SAY YES(「はい」と言え)」と迫ります。「君」にそんな気などあまりないことが分かっていながら。
どうして「言葉」で迫るのかというと「心」は嘘をつかないからです。「心」の観点からみると「君」の気持ちがもう冷めつつあるのは、きっと主人公にとって疑いのない事実です。でも「言葉」なら嘘をつくことができます。表面的でもいいから「YES」と言ってほしいのです。主人公と「君」が君から引き出せるものの精一杯がそこにあるからです。
これ、どんなシチュエーションでしょうか。
私は、主人公は警察から追われる身なのだと勝手に妄想しました。窃盗かなにかのかどで。
2連を引用します。

少しくらいの嘘やワガママも
まるで僕をためすような 恋人のフレイズになる

ここで出てくる「嘘」は、主人公から「君」への嘘です。事件のことを「君」には隠しているのかも。

このままふたりで夢をそろえて
何げなく暮らさないか

「何げなく暮らさないか」は、ちょっと不思議な言い方です。でも主人公が警察から追われる身なら筋が通ります。被疑者としてこれからずっと目を付けられる生活は「何げなく」もなんともありません。主人公はもう「何げない生活」が不可能なのを知っているのかも。

愛には愛で感じ合おうよ
硝子ケースに並ばないように

「硝子ケース」に並んでいたのは、主人公が盗んだ貴重な宝飾品だったりするのではないでしょうか。主人公が窃盗をしたのは、もしかしたら「君」との生活をより豊かにする目的だったのかもしれません。でも実際には豊かな生活どころか「何げなく暮らす」ことをも脅かされる毎日へと転落してしまいました。
主人公が窃盗をしたときには、硝子ケースに並んだ宝飾品は愛をかたちにするまばゆいものに見えていたかもしれません。でもいま考えてみると、硝子ケースに並んでいたのは「心」からは最も距離のあるような、出来合いのイミテーションに見えています。
硝子ケースに並んでいたようなものたちは、本当に欲しいものではなかったのです。
主人公は「君」といっしょに暮らそうと、いろんな言葉を投げかけます。「心」はもう通じ合っていません。窃盗犯として後ろ指を指されるような人と一緒に暮らすことが「君」の幸せにはならないことも主人公は自覚しています。だから「心」を通じ合えることにためらいもあるのです。
そんなときに役に立つのが「言葉」です。君が「YES」と言えば、それが後押しになるから。そして「言葉」なら嘘がつけるから、です。
主人公は「君」がYESと言ったところで、話が何も前に進まないことを分かっています。「言葉」は嘘つきだからほんとうはYESなんかじゃないし、仮にそうだとしたって「君」を幸せにすることはできません。
でも、だからこそ「言葉」だけには頼りたくなってしまうのではないでしょうか。谷村新司・加山雄三『サライ』や、AKB48『10年桜』のように。

迷わずに SAY YES 迷わずに

主人公が「迷わずに」と呼びかけるのはなぜでしょう。
それはひとえに「君」が迷っているように見えるからです。嘘でもいいから言葉が欲しいなんて。華々しい曲に見えましたが、もしかしたら「本当は見た目以上涙もろい過去がある」のかもしれないですね。(関係ない曲を勝手にリンク)



というわけで、CHAGE and ASKA『SAY YES』でした。本当は窃盗じゃなくて別の犯罪かなと思ったのですがさすがに…(もごもご)。
ところで先日、弱者の理論というブログを拝読しました。これを書いている方がどうもテクスト分析を専門にされているらしくて、すっごくおもしろかったのですよこれがまた。
私が見た回はスガシカオ『光の川』を扱っていたのですが「歌詞っていうのは基本的には三種類のパーツを組み合わせることでできている」とか「一般的な歌詞では、そこで描かれているストーリーが普遍的なものになるように、具体的な単語というものは避けられている」とか、私がふわふわとしか捉えられていないことをずばずばと言葉にしてくれているので、とても気持ちがよくてステキな記事でした。読みやすいし。
この記事の中の言葉を借りてCHAGE and ASKA『SAY YES』をまとめるなら、まずは『SAY YES』には「物理的固有名詞」が希薄なことが指摘されますね。それから、「描写」や「自分の動き」にスペースを割かれていない代わりに「メッセージ」にかなり字数が使われているということが特徴的、ということになりそうです。そして私は、主人公がなぜこの「メッセージ」を発するに至ったのか、という点に注目して記事を書いた、って感じにまとめられそうです。すごい。シンプルかつ分かりやすい。
この人もっと歌詞の記事を書いてくれないのかな…。くれないだろうな…。
SAY YES

SAY YES

CHAGE and ASKA VERY BEST NOTHING BUT C&A

CHAGE and ASKA VERY BEST NOTHING BUT C&A

次回予告:次回はSEKAI NO OWARI『RPG』を準備済みですが、もうすぐ発売の新曲で大スキそうなのがひとつあるので、読めたらそっちにします♪

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