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5日と20日は歌詞と遊ぼう。

毎月5日と20日に、J-POPやボカロ曲などの歌詞を読んだり、統計したりしています。twitterは@hacosato。

フラワーカンパニーズ『深夜高速』

「生きててよかった」の違い
こんにちは。
深夜高速
今回は、フラワーカンパニーズ『深夜高速』を取り上げたいと思います。前に、取り上げる予告だけしといて結局ほかの曲に浮気しちゃったままになってたといういきさつがあるので、今度こそ。
さて、歌詞の世界は

生きててよかった 生きててよかった
生きててよかった そんな夜を探してる
生きててよかった 生きててよかった
生きててよかった そんな夜はどこだ

こんなサビがすごく印象的です。
でも私はぶっちゃけ、最初に聞いたときにはちょっと付いていけませんでした。えっいきなり「生きててよかった」って…?という感じで。
でも考えてみたら、この唐突さは必然だったのです。そして、唐突なだけじゃない歌詞の世界が、その奥にちゃんと広がっていたのでした。それをこれから考えていこうと思います。
歌詞はこちら→http://music.goo.ne.jp/lyric/LYRUTND74302/index.html
構成はこちら→A-A-サビ-A-サビサビ-A-サビ〜

現在だけを生きる

真暗な道を走る 胸を高ぶらせ走る
目的地はないんだ 帰り道も忘れたよ

1連の後半を引用してみました。私はこの部分を見て、主人公には過去も未来もないんだなぁ、と思いました。
この中で未来を示す言葉は「目的地」です。でも「目的地はないんだ」とあって、この主人公に確たる未来のイメージがないことが分かります。
それから過去を示すのは「帰り道」です。でも「帰り道も忘れたよ」とあるから、過去への退路も断っていることが分かります。
そんな主人公を生かしているのはもちろん現在です。「真暗な道を走る」のは、過去も未来もよく見えなくて、現在だけがそこにあるからです。
この2行分だけなら、単に今を生きるロックなだけの歌詞ですが『深夜高速』はそんなに単純ではありません。主人公には過去も未来もないくせに、現在に対してぜんぜん誠実じゃないのです。

壊れたいわけじゃないし 壊したいものもない
だからといって全てに 満足してるわけがない
夢の中で暮らしてる 夢の中で生きていく
心の中の漂流者 明日はどこにある?

続く部分を引用しました。前半は「〜ない」ばっかり。消去法でしか現在を描写できない心情が描かれています。生きていく場所も「夢の中」と言ってみたりと、現在に対して、主人公はあまりがつがつと食らいついていこうとしません。そんな主人公が、サビで歌うのです。

生きててよかった 生きててよかった
生きててよかった そんな夜を探してる

ここだけ切り取ると空疎だなぁ、って思います。「生きててよかった」って思うような生き方は人それぞれだとは思いますが、こんな主人公が「生きててよかった」と思うような日はなかなか来ないでしょう。せめて生きることにちゃんと向き合ってみないと、生きててよかったかどうかの判断に材料が足りないはずです。世界に対して「壊れたいわけじゃないし 壊したいものもない」というような感想を持つような人が、生と向き合っている感じはちょっとしてこないのです。
主人公は過去と未来を切り落として、現在にフォーカスして生きています。「生きててよかった」って思えるような夜を探しています。けれど、主人公はちっとも現在に向き合っていません。だから「生きててよかった」って思える日は来ないと思います。
ここまでのところは、ね。

過去と未来と現在を生きる

そんな主人公が、2番以降で変身します。

年をとったらとるだけ 増えていくものは何?
年をとったらとるだけ 透き通る場所はどこ?

2番の冒頭を引用しました。今まで描かれていなかったものが、ここには描かれています。それは未来です。主人公は年をとることはどういうことかを考えています。「目的地はないんだ」と言っていたはずの主人公は、気持ちをひとつ前へと進めたのです。
さらに3番には、こんなフレーズも出てきます。

僕が今までやってきた たくさんのひどい事
僕が今まで言ってきた たくさんのひどい言葉
涙なんかじゃ終わらない 忘れられない出来事
ひとつ残らず持ってけ どこまでも持ってけよ

今度ここに描かれているのは、過去のことです。1番の時点の主人公とは、ここに至ってもう明らかに違います。1番のときには「帰り道も忘れたよ」って言っていたはずなのに。主人公は過去のこと、忘れていなかったのです。それどころか「どこまでも持ってけよ」と歌います。過去の自分と現在の自分を切り離すようなことは、もうしません。過去の自分がどんなにひどくても、それを持っていく勇気を、主人公は手にしています。

生きててよかった 生きててよかった
生きててよかった そんな夜を探してる
生きててよかった 生きててよかった
生きててよかった そんな夜はどこだ

ここへきてやっと、準備は整いました。「生きててよかった」という言葉は、もう空虚なフレーズではありません。主人公が「生きててよかった」を実感するようになるまで、もうあと少しです。

いこうぜ いこうぜ 全開の胸で
いこうぜ いこうぜ 震わせていこうぜ
もっともっと もっともっと見たことない場所へ
ずっとずっと ずっとずっと種をまいていく

この直後に出てくるフレーズはどれも震えるほど刺激的です。「いこうぜ」は、現在を起点にして未来へと向かう言葉。こんな言葉が出てくるのはこの歌詞の中で初めてです。1番に出てきた「年をとったらとるだけ」という部分は、確かに未来を描いていました。でもそれは、現在とは別の世界の、切り取られた未来です。ここに出てきた「いこうぜ」は、現在を起点にして未来へと向かう意志が感じられて、とても新しい感じです。
「もっともっと」もいい感じです。現在と比べて未来はさらに程度が大きい、っていうのを示すのが「もっと」だと思うからです。ここでも現在を起点した未来のイメージが感じられます。
「種をまいていく」も同じ種類の言葉です。種をまいたらいずれ育つし、育ったら花が咲いたり、実を結んだりすることでしょう。種をまくことが、未来へとつながるのです。逆にいうと、未来に手にする果実は、現在の種まきあってこそのはず。

生きててよかった 生きててよかった 生きててよかった
生きててよかった 生きててよかった
生きててよかった 生きててよかった

こういう気づきのあとに出てくる最後のサビは、もういままでとはぜんぜん違います。「そんな夜を探してる」も「そんな夜はどこだ」も、もうありません。
今まで主人公は「生きててよかった」を「そんな夜」っていう風に、メタ化して考えていました。「生きててよかった」と思う自分を、別の自分が冷静な視点で観察しているような感じでした。メタ化すること自体は悪いことではありません。でもここまでの主人公は、メタ化することで、生と向き合うことから逃げてきたようでした。
ところが曲も最後に至って、もう主人公にメタ化はいりません。だから「生きててよかった」を連呼するだけで、サビはちゃんと成立します。
1番だったら「生きててよかった」はただの手触りのない遠くの目標でした。でも最後になって「生きててよかった」は主人公が現に味わっている実感へと変わったのでした。
一見この曲は、同じフレーズが何度も繰り返されている、図鑑型の歌詞みたいに見えます。でも、そうじゃなくて物語型として読むのがしっくり来るみたいです。
たとえばスピッツ『チェリー』とかと同じように、ひとつフレーズが、曲の違う場所で現れて、そしてそれがそれぞれ違う意味を持って響いてくるのですね。



というわけで、フラワーカンパニーズ『深夜高速』でした。
ところでネットにはたくさんの有名な人がいて、たくさんの有能な人がいます。でですね、もぐもぐ(id:haruna26)さんって方がいらっしゃるんですが、その人のTwitterかなんかで私はこの『深夜高速』を知ったのでした。この人の、好きを言葉にする力はハンパないです。超絶見習いたい。というわけでステキな曲をどうもありがとうございました。

…片想いがあふれてIDコールしてしまったけど作法だいじょうぶかな…。

↑ここからだとなんかいいとこで止まってしまうのですが、クリックするともっと試聴できます。
フラカン入門

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次回は、ずーっと前にラ王の泉さんにリクいただいたCHAGE and ASKA『SAY YES』を取り上げます。1年もかかっちゃったけど、次回は妄想多めで書けそう♪

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