5日と20日は歌詞と遊ぼう。

歌詞を読み、統計したりしています。

AKB48『恋するフォーチュンクッキー』

フォーチュンvsクッキー
こんにちは。
こちらは、毎月5日と20日(目安)に、1回につき1曲を取り上げて、その曲の歌詞について考えるブログです。
恋するフォーチュンクッキー[劇場盤](特典なし)
http://realsound.jp/2013/08/post-68.html
さて、私がこの記事を書いている段階で、この記事はサイト内の人気記事ランキングで1位になっています。すごい! 歌詞についての話が1位になるなんていい時代!!
この記事の内容としては、

それにしても、だ。この曲を「物語性」という観点で聴くと、その歌詞はもはや「何も言ってない」のと同じだ。
って感じでにべもなくて、

このフォーチュンクッキーは、まったく無根拠に「あなたとどこかで愛しあえる予感」がする程度で、全然恋なんかしてないのだ。
とばっさりです。その論調に関して、はてブとかでは賛否両論みたいですね…。
そんな『恋するフォーチュンクッキー』、せっかくなので私も考えてみたいと思います。これで私も人気ブロガー()の仲間入りだ!
歌詞はこちら→http://music.goo.ne.jp/lyric/LYRUTND149434/index.html
構成はこちら→A-A-B1B2-サビ-A-B-サビ-B2-サビ

現在と未来

あなたのことが好きなのに
私にまるで興味ない
何度目かの失恋の準備
Yeah! Yeah! Yeah!

歌詞の1連を引用しました。AKBの曲のいいところは、歌詞の最初の数行で、シチュエーションがちゃんと分かるところです。AKB48『GIVE ME FIVE!』とかまさにそうです。ほかのAKBの曲も、だいたい最初の数行で状況を教えてくれています、それもすごく鮮やかな方法で。
今回の『恋するフォーチュンクッキー』も、それは同じです。最初の2行で、たぶん男の子に片思いしているだろう主人公の女の子がはっきり浮かんできます。この子は初めての恋ではありません。この恋をなんとか成就させようっていう気概があるわけでもありません。それぐらいのことが、この4行から分かってきます。単にふわふわした恋情があって、それがふわふわのままで消えてしまいそうなところから、この歌詞は出発しています。
Aメロに描かれているのは、現在です。「あなたのことが好き」なエピソードや理由やきっかけが描かれていれば、それは過去の話になりますが、この歌詞には単に好きという気持ちだけしか綴られていません。だから、この歌詞はひたすら現在を描くし、現在形で描かれます。

カフェテリア流れるMusic
ぼんやり聴いていたら
知らぬ間にリズムに合わせ
つま先から動き出す

現在に向き合う描写は、Bメロになっても同じです。音楽に合わせて「動き出す」のは、現在性そのものです。音楽やダンスは、現在というものとすごく結びつきが強いものだと思うし。
たとえば絵画なら、描かれ終わってからも基本的には同じ状態を保っていられるし、ルネサンスのころの絵を私たちは当時とたぶんだいたい同じように受け取ることができます。でも音楽だとそうはいきません。録音ってものが普及する前の音楽を、当時の人々の耳に届いたのと同じように聴くことは、現代の私たちにはできません。残された楽譜を見て、当時の聴かれ方を文献や絵画などで知って、その上で予想することしかできません。私たちがクラシックとして聴いている曲は、もしかしたら当時の人々とは似ても似つかぬかたちになっているかもしれません。それは、音楽やダンスが現在性というものと強く結びついているものだからなのかな、と思ったのです。
こんな感じで、AメロもBメロも、描かれているのは現在です。でも、サビは違います。

恋するフォーチュンクッキー!
未来は
そんな悪くないよ
Hey! Hey! Hey!
ツキを呼ぶには
笑顔を見せること

「未来は/そんなに悪くないよ」なんてフレーズが出てくるとは! 文字通り、ここは未来のことを描いている部分だと思います。そのあとの「ツキを呼ぶには」っていうのも、未来にツキを呼ぶためにいますべきことは、って意味に見えるので、これもやっぱり未来を向いた歌詞だと思います。さっきとぜんぜん違うよ!

ハートのフォーチュンクッキー
運勢
今日よりもよくしよう
Hey! Hey! Hey!
Hey! Hey! Hey!
人生捨てたもんじゃないよね
あっと驚く奇跡が起きる
あなたとどこかで愛し合える予感

サビの後半も引用してみます。「運勢/今日よりもよくしよう」って部分はいいですね。この「運勢」は、現在でも過去でもなく、未来の運勢です。未来の運勢だけが「今日よりもよく」できうるものだから。
それに最後には「予感」という単語もあります。これも未来志向の単語ですね。
AメロBメロでは、この歌詞、ずっと現在に立脚していました。サビは違います。サビは未来志向なのです。
それからAメロBメロ/サビの間にはもうひとつ大きな違いがあります。AメロBメロの主人公はとてもネガティブなのに対して、サビではとても前向きです。

あなたのことが好きなのに
私にまるで興味ない
何度目かの失恋の準備

もう一度、1連のAメロを引用してみます。主人公は「あなた」のことが好きで「あなた」は主人公に興味がない様子。あるあるですね。こっからふつうならあなたのことを振り向かせてみせる!!ってノリでがんばる選択肢もあるはずなのですが、主人公は「失恋の準備」という方向に舵を切ってしまいます。主人公は、とてもネガティブです。

まわりを見れば大勢の
可愛いコたちがいるんだもん
地味な花は気づいてくれない

さっき飛ばした、2つめのAメロも見ておきます。ここでも主人公は鬱々としています。「大勢の/可愛いコ」に囲まれて、自分自身のことを「地味な花」だと評しています。もうちょっと自分のことをプラスに考える方法もあると思うのですが、主人公はそれを選びません。
そんなAメロとは対照的に、サビではなんだか妙にポジティブです。

未来は
そんな悪くないよ

ツキを呼ぶには
笑顔を見せること

運勢
今日よりもよくしよう

人生捨てたもんじゃないよね
あっと驚く奇跡が起きる
あなたとどこかで愛し合える予感

1番のサビからしか引用してないのに、こんなにたくさんあります。さっきまでとはぜんぜん雰囲気が違います。まるで、別の人がしゃべってるみたい。表にまとめると、こんな感じです。

Aメロ/Bメロ サビ
現在を描く 未来を描く
ネガティブ ポジティブ
フォーチュンvsクッキー

さて、私はこの構図、フォーチュンクッキーと同じだと思いました。
Google画像検索で探しました。フォーチュンクッキーは、こういうやつです。
http://www.cw2.jp/2007-11/0007/mimi1115cw2/image/P1110597.JPG
クッキーの中におみくじが入っています。おみくじは「フォーチュン」って部分と符合すると思うので、フォーチュンクッキーという言葉を分解して説明するなら、クッキーの中にフォーチュンが入っている、って感じになります。フォーチュン部分とクッキー部分で、ひとつのお菓子が構成されているわけです。
さて、この歌詞のAメロ/Bメロの部分は、クッキーに相当すると思います。フォーチュンクッキーのフォーチュン部分は、外からは見えないもの。外からまず見えるのはクッキーです。だからクッキーは、現在が描かれているAメロやBメロと相性がいいモチーフです。
それに、

まわりを見れば大勢の
可愛いコたちがいるんだもん
地味な花は気づいてくれない

性格いいコがいいなんて
男の子は言うけど
ルックスがアドヴァンテージ
いつだって可愛いコが
人気投票1位になる

見た目の話が出てくるのはAメロやBメロだけです。フォーチュンクッキーは、見た目ならただの茶色いカタマリですから、ルックスがいまいちなのもどことなく符合しています。
一方で、サビの部分はフォーチュンに相当すると思います。
サビはすべて「フォーチュンクッキー」で終わる1行から始まっていますが、その続きはまちまちです。でも、まとめて引用して並べてみて見ると、気づくことがあります。

未来は
そんな悪くないよ

運勢
今日よりもよくしよう

その殻
さあ壊してみよう

そんなに
ネガティブにならずに

どれもまるでおみくじに書いてあるようなセリフみたい!
サビのコトバは、おみくじそのもののようです。特に私がおもしろいなと思ったのは「その殻/さあ壊してみよう」のところ。ここに出てくる「その殻」は、自分の内面にある心の壁であるのと同時に、まるでフォーチュンの表面を取り巻くクッキー部分のことも指しているように見えてきます。
この曲は、単にネガティブとポジティブを行き来するだけの曲ではないのです。その二面性をフォーチュンクッキーになぞらえられているから、歌詞全体にさらに深みが出てきているんですね。



というわけで、AKB48恋するフォーチュンクッキー』でした。
私は歌詞をとりまくテクストには触れません(というか触れきれない)ので、さしこのこととかぜんぜん触れませんでしたけど、その辺の文脈が分かる人にはこの歌詞はもっとおもしろいんだろうなぁと思います。ネットでいろいろ眺めてみると、冒頭のリアルサウンドの記事に関して「もっと歌詞を取り巻くテクストを考えればいいのに」っていう意見はたくさん見受けられました。でもそれを考えに入れるとどういう風に読めるのかについてはどうも言わずもがな的な雰囲気になっているらしく、私は蚊帳の外っぽくて残念でした…。
そんなにわかな私でも歌詞を読んだら楽しいし、総選挙をネットで見てるとやっぱりおもしろいし、AKB48ってステキだなぁって思います♪ 本文には出てきませんでしたが、AKB48『10年桜』も前に読んだことあるので、よければそちらもぜひ。次回はゆず『友 〜旅立ちの時〜』の歌詞の話をします!