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5日と20日は歌詞と遊ぼう。

毎月5日と20日に、J-POPやボカロ曲などの歌詞を読んだり、統計したりしています。twitterは@hacosato。

Mr.Children『HANABI』

「君」はどこ? 「君」はだれ?
こんにちは。
夏の初めごろって、夏の曲を取り上げたいとかあんまり思わないくせに、毎年、夏の後半になると「今年まだこんなに取り上げたい曲があるのに!」ってなります。毎年です。
HANABI
というわけで、今回はMr.ChildrenHANABI』を取り上げたいと思います。Mr.Childrenを取り上げるのは『かぞえうた』以来です。
さて、歌詞は

決して捕まえることの出来ない
花火のような光だとしたって
もう一回 もう一回
もう一回 もう一回
僕はこの手を伸ばしたい

こんなサビです。花火が一度、また一度と打ち上げるのと呼応して、主人公は手を伸ばすのでしょう。
でも、どんなに手を伸ばしたって、花火には手が届きません。いったいこの曲の「花火」はどんな意味がある言葉なのでしょうか?
今回はそれを探っていきたいと思います。前にこの歌詞を読んだときのメモがどっか行ったので、記憶をたよりに綴っていきます(笑)。

歌詞はこちら→http://music.goo.ne.jp/lyric/LYRUTND69381/index.html
構成はこちら→A-A-B-A-サビ-A-B-サビ-C-サビ

「君」はどこなの?

この曲、主人公と「君」との間にものすごい距離があります。

どれくらいの値打ちがあるだろう?
僕が今生きているこの世界
すべてが無意味だって思える
ちょっと疲れてんのかなぁ

最初のAメロを引用しました。気になるのは何といっても「僕が今生きているこの世界」という表現です。ここが「僕らが」じゃなくて「僕が」になっているのはちょっと不自然です。この曲の登場人物が「僕」と「君」のふたりであることははっきりしていますが、このふたりが「僕ら」と表現されている部分は曲全体でたった1個所しかありません(後述します)。それ以外は全部「僕」と、単数形で綴られています。このふたりは、一人称複数形で綴られることがほとんどないのです。
さらに「僕が今生きている」という言い回しが怪しすぎです。だってこれじゃまるで君は生きていないみたいだから。「君」は死んでしまっているのでしょうか。あとでこのこともちゃんと考えていくことにしましょう。

君がいたらなんていうかなぁ
「暗い」と茶化して笑うのかなぁ

1番サビの直前のAメロも引用してみます。ここには「君がいたら」という仮定が登場します。そんなことが仮定になるのは、いまは「君」がいないからです。「総選挙で一位になったら私どうしよう!?」って発言が許されるのは、選挙の開票前だけです。でしょ?

その柔らかな笑顔に触れて
僕の憂鬱が吹き飛んだらいいのに

続く部分を引用します。「吹き飛んだらいいのに」という表現は、吹き飛ばないときだけに使えるやつです。「のに」は逆説の接続助詞ですが「のに」は後件を省略することができます。この場合「“前件の事実から予想し期待していたにもかかわらず”という期待はずれの事実に対する不満の気持ちを含めた言い方」になります(森田良行『基礎日本語辞典』)。ここでいうと、君の笑顔に触れて憂鬱が吹き飛ぶはずなんだけど、吹き飛ばないなぁ…って感じになるでしょう。その原因は巡り巡って、君の不在へと行き着くはずです。
ちなみにさっき後回しにした「僕ら」が出てくる部分にも触れておきましょう。

未来が僕らを呼んでる
その声は今 君にも聞こえていますか?

2番のBメロです。ここに「僕ら」が出てきます。ばらばらになりがちな主人公と「君」がひとつの言葉で表現されている唯一の部分ですが、よく見るとこれもなにかがおかしいです。
未来が呼んでいるのは、この文脈なら「僕」と「君」です。でもその声は君に聞こえているのかどうか、主人公は確信を持てずにいます。同じ場所にいるなら、主人公が聞いた声は普通「君」の耳にも届くことでしょう。でも主人公はそんな単純なことは信じません。主人公と「君」との間に遠い距離があることを、主人公は知っているからです。
でも「君」が死んでいるとか、そんな風には私は思いません。
1番のサビはこんな感じ。

決して捕まえることの出来ない
花火のような光だとしたって
もう一回 もう一回
もう一回 もう一回
僕はこの手を伸ばしたい

2番のサビはこんな感じ。

さよならが迎えに来ることを
最初からわかっていたとしたって
もう一回 もう一回
もう一回 もう一回
何度でも君に逢いたい

引用部分の最後の1行はそれぞれ「僕はこの手を伸ばしたい」「何度でも君に逢いたい」となっています。同じメロディが載っている部分に同じ意味がかぶさるのはこのブログの経験則です。主人公が花火に手を伸ばすことと、主人公が「君」に逢うことは重ね合わされているのでしょう。つまり、花火=君だといえそうです。
でも、花火は何度も上がります。主人公は「もう一回 もう一回」と繰り返しています。生死はそんなに気軽に何度も繰り返したりしないと私は思うのです。だから私は「君」は死んだ存在だとは思わないのです。単に主人公との間に、すごい距離があるだけなのです。

「君」はだれなの?

では「君」とはいったいだれなのでしょうか。こんなのはどうでしょう。
「君」はラブプラスみたいなゲームの中の存在だとしたら。で、主人公はそのゲームをやめたいと思っているのだとしたら。そんな妄想をベースにして、今回この歌詞を見てみます。

どれくらいの値打ちがあるだろう?
僕が今生きているこの世界
すべてが無意味だって思える
ちょっと疲れてんのかなぁ

とりあえず、冒頭の1連がスムーズに読めるようになるのはもう明らかです。「僕が今生きているこの世界」とは、ゲームの外側の、“こちら側”の世界です。「僕が今生きているこの世界」では、主人公はDSを握り、画面の向こうの「君」を見つめています。そんな世界にどれくらいの値打ちがあるだろう?と主人公は自問しています。だってこちら側の世界には「君」はいないんですから。そんな世界は無意味なような感じがします。疲れているんでしょうか。

手に入れたものと引き換えにして
切り捨てたいくつもの輝き
いちいち憂いていれるほど
平和な世の中じゃないし

主人公は実家暮らしのニートでした。が、そんな生活も立ち行かなくなり、バイトを始めるようになります。するとリアルな人間とのコミュニケーションができ、お金が手に入るようになります。けれど主人公は、そんな生活に満足しているわけではありません。だって、ゲームするための時間(=「君」と一緒に過ごせる時間)が減っちゃうんだもん!
歌詞の中でいうと、「手に入れたもの」はお金やコミュニケーション。「いくつもの輝き」は「君」のいろんな表情です。私は「君」=花火だと思っています。花火は光です。「輝き」という言葉は「光」や「花火」という言葉ととても相性がいいと思います。

決して捕まえることの出来ない
花火のような光だとしたって
もう一回 もう一回
もう一回 もう一回
僕はこの手を伸ばしたい

だから、サビの歌詞だってそんな感じです。主人公は花火大会に行っているわけではありません。狭義のリア充でもありません。単にいま、バイトの休み時間にDSに興じているのです。「花火のような光」は花火そのものではありません。DSから発せられる液晶の光です。僕は手を伸ばして「君」の世界に飛び込みたいのです。でも、それは叶わぬ夢です。

笑っていても
泣いて過ごしても平等に時は流れる

「平等に時は流れる」は、よくあるJ-POPのクリシエではありません。これはラブプラスでいうなら「DS本体の内蔵時計と連動した「リアルタイムクロック(RTC)」により、現実の時間や季節に合わせたリアルタイムの「恋愛生活」を体験できる(年齢は変わらない)」ことを指しているのです(出典はWikipedia)。
本当は主人公は、もうすぐ親にDSを取り上げられてしまいます。それまでの間に時間の猶予が与えられています。だからそれまでの間に、

さよならが迎えに来ることを
最初からわかっていたとしたって
もう一回 もう一回
もう一回 もう一回
何度でも君に逢いたい

「何度でも君に逢いたい」と、「君」への思いをぶつけます。「さよならが迎えに来る」のはもちろん、DSが取り上げられてしまう日を指しています。
本当は、主人公は知っています。ゲームの世界も楽しいけれど、そこに籠っているだけでは生きていくことは難しいのです。だから、いつかさよならしないといけません。さよならしなくたって、現実と折り合いを付けていける人はたくさんいますが、主人公はそういう性分ではないのです。だからいまは、

逢いたくなったときの分まで
寂しくなったときの分まで
もう一回 もう一回
もう一回 もう一回
君を強く焼き付けたい

未来のぶんまで「君」を記憶に焼きつけるまでです。網膜に焼きつけるまでです。

臆病風に吹かれて 波風がたった世界
どれだけ愛することができるだろう?

画面の外には、もっと広い世界が広がっているだろうこと、主人公は察しています。「臆病風に吹かれて 波風がたった世界」とは、画面の外の、リアルの世界です。臆病になってゲームの中へ逃げてしまったけれど、その結果、波風が立ってしまった世間と、主人公は再び向き合おうとしています。
この曲を、私は、そんな別れと決意の曲だと思いました。



というわけで、Mr.ChildrenHANABI』でした。夏のうちに読もうと思っていましたが、この読みだったらもはや夏とかぜんぜん関係がなかった…。
現実のほうの私ですが、今年は行きたかった花火、外せない予定とかぶってしまいました。ゆえに今年は花火を見に行くことなどなさそうです。別にいいけど。
別にいいけど!!←
HANABI

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