5日と20日は歌詞と遊ぼう。

歌詞を読み、統計したりしています。

hide with Spread Beaver『ピンク スパイダー』

君はスパイダー、なのか…?
こんにちは。
ピンクスパイダー
今回は予定を変更しまして、hide with Spread Beaver『ピンク スパイダー』を取り上げたいと思います。
歌詞はこちら→http://music.goo.ne.jp/lyric/LYRUTND10388/index.html
構成はこちら→AA-B-A-B-サビ1-サビ2-セリフ-B-サビ1サビ1-サビ2-サビ1-アウトロ

君はスパイダー

この曲は、たくさんのキャラクタが登場して、まるで小説のようです。少し見てみただけでも、

  • 極楽鳥
  • ピンク スパイダー
  • 誰か
  • 鳥達

こんなにたくさん。このうちいくつかは同一人物(動物は人物ではありませんが、「同一人物」っていう言い回しは便利なのでこのまま使います)かもしれませんし、いくつかはぜんぜん重要性が低すぎてキャラクタとして数えるまでもない存在かもしれません。でも挙げてみるとこんな感じ。
私が挙げた7つのうち、とりわけ大事なのは「君」だと私は思いました。「君」はこの物語の主人公を担っていそうだし、きっと残りの6人のうちどれかは「君」と同一人物なのだと思います。
ふつうに考えれば「君」はピンク スパイダー。つまり蜘蛛(クモ)です。最初は「君」=蜘蛛という前提で考えてみます。ここからは歌詞を最初から連ごとに区切って途中まで引用しながら、登場人物を整理しつつ考えてみたいと思います。

君は 嘘の糸張りめぐらし
小さな世界 全てだと思ってた
近づくものは なんでも傷つけて
君は 空が四角いと思ってた

1連を引用しました。蜘蛛は巣を張り、獲物の登場を待つというスタンスです。「小さな世界」「近づくものは なんでも傷つけて」のあたりの表現にそれが反映しているように見えます。
「小さな世界 全てだと思ってた」の部分は意味深です。この裏には、実際には「君」の住んでいる世界は全てではない、という意味がかなり透けて見えます。これはのちのちの伏線になります。

「これが全て… どうせこんなもんだろう?」
君は言った… それも嘘さ…

1行めは「君」のセリフです。続く2行めは地の文。「それも嘘さ…」と発言しているのは一人称さんなのだろうと思います。
ふつうは、一人称さんが歌詞の中では主人公に当たることが多いとは思いますが、今回の場合、一人称さん≠主人公です。この曲は一貫して「君」について描写されているし、いまは「君」=蜘蛛として考えています。だから、Wikipedia文学における人称の項目の用語でいうと、この歌詞は二人称小説だといえそうです。いつもの私だったら「それも嘘さ…」と書いてあるのを見て、その語り手の素性について考えようとしますが、この歌詞の場合はそこは相対的に大事ではないと思うのです。

ケバケバしい 君の模様が寂しそうで
極楽鳥が 珍しく話しかけた

そういう観点でいくと、この連もそれほど重要ではない部分みたいです。私はこの部分はただの地の文だと思います。こんな風に次々と登場人物が出てくるこの歌詞はとってもおもしろいとは思いますけど。

「蝶の羽根いただいて こっち来いよ」
「向こうでは 思い通りさ」

1行めは極楽鳥から「君」=ピンク スパイダーに向けてのセリフだと思います。ここには異論ないでしょう。
肝心なのは2行め。多くの人はこれも極楽鳥のセリフの続きだと考えていらっしゃるのではないかと思います。
でも、それだとおかしいです。だって、カッコが2つにわかれてるし!
私はこの2行め、「君」=ピンク スパイダーが極楽鳥に対して返事をしている部分だと思いました。外に出るように勧める極楽鳥に対して「君」=ピンク スパイダーは、「そんな必要はないさ!」と返事をしているのです。

ピンク スパイダー 「行きたいなぁ」
ピンク スパイダー 「翼が欲しい…」

続く部分はサビになっています。2つのカッコは両方とも「君」=ピンク スパイダーのセリフだと思いました。さっきは連続するカッコは別の人がしゃべってるはず!とか言ってたのに、ご都合主義なのは見逃してください。カッコとカッコの間に別の要素が入っているからいいんだよ!汗
さて、さっきまでは「思い通りさ」と返事をしていた「君」=ピンク スパイダーが、サビでは「行きたいなぁ」「翼が欲しい…」と叫んでいます。さっきのは強がりだったわけです。自分は大丈夫だと話している「君」=ピンク スパイダーのセリフが、実はただの強がりだった、というところに、この歌詞の中核があるように思います。

捕えた蝶の 命乞い聞かず
君は空を睨む
「傷つけたのは 憎いからじゃない
僕には羽根が無く あの空が 高すぎたから…」

続く部分はこんな感じ。どんどん新しいキャラクターが登場するこの曲は、歌詞が本当に物語のようです。3行めと4行めはひとつのカッコで括られているので、ここはひとくくりにしていい部分。「君」=ピンク スパイダーのセリフみたいですね。

「私の翼を使うがいいわ,スパイダー。
飛び続けるつらさを知らないあなたも,
いつか気が付く事でしょう。
自分が誰かの手の中でしか飛んでいなかった事に。
そして,それを自由なんて呼んでいた事にも…。」

で、この歌詞の折り返し部分に入ります。
ここに出てくる「私」は、蝶ではなくてさっきの一人称さんだと思います。蝶は命乞いをしているはずですが、「私」は積極的に自らの翼を捧げようとしているからです。
この部分は、歌詞の1連と符合していそうです。「小さな世界 全てだと思ってた」という部分が1連にありました。これと同じことがここで歌われていますね。やっぱり「君」=ピンク スパイダーが住んでいた世界は全てではなくて誰かの手の内の狭い世界だったことが確実になるのです。そして、彼がその外の世界に出たがっている理由もこれではっきりするような感じです。ここまで見通しができれば、残りの部分はきっとぜんぶを引用しなくても大丈夫! な気がします。
よければこのノリで、残りも読んでみてください。イケそうな気がしますね。

君は引きこもり

ところで。
この曲、「君」が単純に蜘蛛だと思うのは、じつはちょっと違うと思うのです。私だったらそんなに昆虫に感情移入できないから!!(注:蜘蛛は昆虫ではありません)
スパイダーは比喩だと思います。具体的にいうと、ひきこもりの比喩だと思いました。つまり私は、一人称さんがひきこもりの「君」に歌いかけている、という設定だと思っています。今度はそういう設定で考えてみましょう。
ひきこもりと蜘蛛の似ているところは、巣を張って同じ場所に定住しているところ。そしてそこから遠くへは行けずに、自身は一国一城の主でいられるところです。実際には蜘蛛が遠くにいけることはさっき調べたので知りましたが、巣を張っている蜘蛛を見て連想するのはやはり定住のイメージだと思います。

君は 嘘の糸張りめぐらし
小さな世界 全てだと思ってた

「嘘の糸」とは、自分に対するごまかしでもあります。自室という小さな世界を、全てだと思い込もうとしている、自分への嘘のようです。

近づくものは なんでも傷つけて
君は 空が四角いと思ってた

その部屋から「君」を引きずり出そうとする人はたくさんいます。そういう人たちへ「君」は心ない言葉を投げかけては傷つけています。空が四角く見えるのは、四角い窓の部屋にこもっているからです。

ケバケバしい 君の模様が寂しそうで
極楽鳥が 珍しく話しかけた

「君の模様が寂しそう」なのは、模様が他人の目には触れないからです。極楽鳥が話しかけることができるのは、きっとオンラインゲームとか、そういうネット環境を介しているからなのでしょう。

「蝶の羽根いただいて こっち来いよ」
「向こうでは 思い通りさ」

極楽鳥は「君」に「羽根」を勧めて、「こっち」(=部屋の外の世界)へ誘い出しています。それに対して「君」は「向こう」(=部屋の中)では思い通りだから外へは出ない、と言っているのです。それは本当は強がりだけど。
その後のサビの部分で、注目に値するのは2行めです。

ピンク スパイダー 「翼が欲しい…」

と言っています。極楽鳥が推奨していたのは「羽根」でした。「君」が欲しがっているのは「翼」です。羽根と翼じゃちょっと違うけど…。このギャップは、後半になって生きてきます。
どちらかと言えば、羽根を持っているのは昆虫で、翼を持っているのは鳥類というイメージです。そして、蜘蛛は鳥よりも昆虫に近い感じ。蜘蛛に似合うのは翼よりも羽根です。極楽鳥はそれを踏まえて「君」に羽根をオススメしているのでしょう。
でも、極楽鳥自身は翼を持っています。「君」はそれに憧れがあるのかもしれません。自分ばっかり翼を持っていて、俺には羽根を押し付けるなんて…と「君」が思っているのだとしたら、翼を欲しがるのもむりはないのかもしれません。でも、

借り物の翼では うまく飛べず
まっさかさま 墜落してゆく

やっぱり。「君」に翼は似合わないのです。そして、羽根はどうしても自身の気持ちとはなじみません。外へ出るための武器は、羽根でも翼でもないのです。じゃあ、なんだろう?

「もう一度飛ぼう この糸切り裂き
自らのジェットで あの雲が 通り過ぎたら…」

最終的に「君」が見出したのは「ジェット」です。それに気づいて「君」はやっと外へと飛び出すことができます。

桃色のくもが 空を流れる…

それはなぜでしょうか。それはきっと「くも」が蜘蛛でもあり、雲でもあるからです。「雲」を想起させるような、空を飛べる道具、つまり「ジェット」が「君」の味方だったのです。



というわけで、hide with Spread Beaver『ピンク スパイダー』でした。
Wikipediaの記事によると、

歌詞の内容が自殺を連想させるとして、hideの死に関連付けられワイドショーなどでも取り上げられた。だが、hideの生前のインタビューではむしろ前向きなメッセージが込められていると話していた。
とあります。私は歌詞を読みきるまでWikipediaを見ていなかったのですが、これでいえば私の読み方は「前向きなメッセージ」を捉えたというかたちになりそうです。あるべき自分を見つけて、狭い部屋から飛び出した、という風に読んだから。
でも確かに、自殺を連想するような読み方もできそうな気がします。最後の「空を流れる…」の部分を、飛び降り自殺として見れば確かにそんな感じ。
いずれ時間を見つけて、そういう読み方もできたらいいな、と思っています。きっと歌詞の世界もかなり違って見える、はず。
https://itunes.apple.com/jp/album/pinku-supaida/id631434067?i=631436820&uo=4&at=10lrtS
↑なんかいいトコで止まってますが、クリックするとサビも聴けます。アルバムの全曲プレビューもできてとてもステキ。
[asin:B000056UX7:detail]
次回予告:次回はaiko三国駅』を読んでみたいと思います。いままででいちばん妄想が炸裂していますのでお楽しみに。
http://music.goo.ne.jp/lyric/LYRUTND24903/index.html