5日と20日は歌詞と遊ぼう。

毎月5日と20日に、J-POPやボカロ曲などの歌詞を読んだり、統計したりしています。twitterは@hacosato。

若旦那『青空』

文法ばっかりで読み解く『青空』
こんにちは。もうすぐ今年も終わってしまいます。できれば今年の曲を取り上げたいー。
TASUKI/青空
ということで、今日はアルバムもリリースされたばかりの若旦那『青空』を読んでみたいと思います。ちなみに新しいアルバムは『あなたの笑顔は世界で一番美しい』というタイトル。これは『青空』のサビの部分のフレーズをとってきたものでしょうね。

あなたの笑顔 世界で一番美しいなんて言われたら
Wow oh
恥ずかしいけど 悔しいけど 嬉しくて笑っちゃうよ

サビのフレーズはこんな感じ。私は最初この曲を有線(たぶん)がかかってるお店で聴いたんですが、なんかもうこのフレーズが印象的すぎて、その後しばらくの間、私の頭の中ではヘビーローテーション状態でした。嬉しくて笑っちゃうよ〜♪

歌詞はこちら→http://music.goo.ne.jp/lyric/LYRUTND118382/index.html
構成はこちら→イントロ-サビ-A-B-サビ-ア-B-サビ-C-サビ-サビ-アウトロ

品詞の玉手箱

いきなりですが、3連を引用してみます。もうライムがすごいです。

世間でレッテル貼られた落ちこぼ そう呼ば
尖ってる目つきは誰かのせい 閉ざしてたほうが心楽
こんな奴でもガキの 器用に何でもできたけ
ごまかし強い振りして ついてるうちに それらは過

この押韻はすばらしいですねー。最初の2連はフレーズの最後がeになっていて、最後の2連はフレーズの最後がoになっています。もちろんこれは計算ずくです。ほかの連についても同じような仕組みになっているし、歌い方も母音を合わせているのをアピールするような感じですからね。
でも、どうして前半がeで、後半がoなんでしょう?どうせならぜんぶeとかのほうがかっこいいのに。
というわけで、私が代わりにぜんぶeバージョンでつくって差し上げました♪ やってみたらそんなに難しくなかったです。

世間でレッテル貼られた落ちこぼ そう呼ば
尖ってる目つきは誰かのせい 閉ざしてたほうが心楽(ここまで元バージョンと同じ)
ガキの頃には小器用 なんでもそつなくできてい
でもごまかし強い振りし 嘘ついては大人になっ

できたー! このほうが押韻が揃うよ! 言い回しを少し変えたところもありますが、だいたい許容範囲内だと思います。じぶんレゲエの才能があるんじゃ…?
なんて思って歌ってみたりしたんですが、なにかが物足りない…。どうも、元のバージョンのほうが起伏がある感じ。自分がつくったやつは単調な気がしてきます。どうしてでしょう?
それは、品詞が関係していました。
元のバージョン、押韻している最後の文節を書き出してみます。「落ちこぼれ」「呼ばれ」「せい」「楽で」。そして「頃」「けど」「嘘」「過去」。こんな風に続きます。ひとつずつ品詞を考えてみますね。


落ちこぼれ:名詞。
呼ばれ:動詞「呼ぶ」の連用形。
せい:名詞。
楽で:形容動詞「楽だ」の連用形。
頃:名詞。
けど:接続助詞。
嘘:名詞。
過去:名詞。
私が作ったものも同じように品詞を考えてみるとどうなるかというと、

落ちこぼれ:名詞。
呼ばれ:動詞「呼ぶ」の連用形
せい:名詞。
楽で:形容動詞「楽だ」の連用形
小器用で:形容動詞「小器用だ」の連用形
いて:補助動詞「いる」の連用形
して:動詞「する」の連用形
なって:動詞「なる」の連用形
バレてしまったー。私が書いてみた歌詞、連用形ばっかりー!
連用形とは、自分なりの解釈でカンタンに言うと、文章をそこで途切れさせないで、続きがありますよ、ということをアピールするときに使う活用形のひとつです。「 閉ざしてたほうが心楽で」と書いてあったら、「楽でございます」とか「楽で、安らげた」とか、なんでもいいですがとにかく文章には続きがあることを想起させます。「 閉ざしてたほうが心楽」みたいに終止形だったら、だったらそこですぱっと文章が終わりますよね。連用形はそれとは違う印象です。
ふつう文章ってそんなに細かくぶつ切りにしませんから、連用形は会話の中でも文章の中でもよく使いますが、それも程度問題。4行もある歌詞の一節がぜんぶ連用形で埋められていると、なんかいつまでたっても結論を言わない、煮え切らない歌詞に見えてしまいがちです。私が書いた歌詞は、そういうトラップに陥っていたんですね。しかももうひとついうと、私が使った動詞は「いる」「する」「なる」と、つぶしの利くような無難でとっかかりの薄い動詞ばっかり…汗
元の歌詞はそんなことはありません。元の歌詞は連用形が少ないどころか、品詞も名詞や接続助詞まで織り交ぜて、退屈させない歌詞の音の世界を作り上げています。プロの歌詞っていうのはこういうことなのだな、と実感させられますね☆

ずらした形容詞と、戦略的な複文

この歌詞は、サビではひたすら同じフレーズが繰り返されます。でもこのサビのところ、ちゃんと繰り返すだけのことはある、深みのあるフレーズだと私は思います。

あなたの笑顔 世界で一番美しい なんて言われたら
Wow oh
恥ずかしいけど 悔しいけど 嬉しくて笑っちゃうよ

まず「あなたの笑顔 世界で一番美しい」。ここです。
ふつう、あんまり笑顔のことを美しいとは表現しないと思うのです。
たとえば、福山雅治『家族になろうよ』だったら

いつかおばあちゃんみたいに可愛い笑顔で

って表現が出てきます。笑顔は、可愛いもの。
flumpool『証』には、

せめて笑顔で“またいつか”

という部分があります。笑顔は、再会とセット。
森山直太朗『さくら(独唱)』には、

泣くな友よ 今惜別の時 飾らないあの笑顔で さあ

という部分があります。笑顔は、飾らないもの。
AKB48『10年桜』には

君と出会えたことが/過ぎた季節の意味/その笑顔が眩しかった

という部分があります。笑顔は、眩しいもの。
ほかにもたくさん例を挙げられそうですが、笑顔と美しさをコロケーションすることってあんまりありません。「笑顔 美しい」でGoogle検索してみても、ヒットするのってだいたい美容のことばかり。日常のことで、笑顔と美しさって、いっしょに使うようでぎりぎり使わない言葉の組み合わせです。そこを突いてくるのがうまいなぁと思います。
それからもうひとつ、私は「なんて言われたら」ってところがすごくいいなと思います。
「あなたの笑顔 世界で一番美しい」っていうフレーズは短いけれど力があるし、アルバムのタイトルにするとかだったらぴったりです。でも、それだけだと表現は浅いし、それだけのラブソングは掃いて捨てるほどあるぜって思います。
でもこの歌詞は、それを複文にしています。Whiteberry『夏祭り』のときにも取り上げましたが、単純なフレーズも複文にすることによって、それに対する歌い手の気持ちとかスタンスとかをさりげなく盛り込むことができます。そうすることによってこの歌詞にもすごく深みが出てきていますよね。
「恥ずかしいけど 悔しいけど」って部分も上質な表現です。根っこにあるのは「笑っちゃうよ」っていう単純な感情です。その感情は単純だから、その単純さが損なわれないように歌詞に仕立てないと、歌にする意味がないですよね。でも薄っぺらい歌詞にもしたくないしな…。そんな感情が、この「恥ずかしいけど 悔しいけど」に込められている気がします。メロディも畳み掛けるような感じでふたつの山を描いててきれいだし、そこにぴったり合わさるように波が2つできあがるような歌詞になっています。とってもキレイです。
もともとこのサビは「笑顔が美しいって言われて、つられて笑ってしまう」っていうシンプルなエピソードを綴っているだけの歌詞です。日常生活でそういうことがあったとしても、私だったらすぐに記憶の彼方に消えてしまうかもしれないようなレベルの小さいできごとです。でもそれを長ったらしくなく、かつ薄っぺらくもなく、サビのフレーズにまとめあげるなんて本当にすごいことだと思います。この歌詞は物語というより図鑑型です。図鑑型の歌詞は繰り返しが多くなる分、繰り返してあるところにはキメキメの上等なフレーズを持ってきたいところ。この歌詞はその鑑みたいです♪

つながリンク

前回はくるり『ばらの花』を取り上げました。今回の若旦那『青空』との共通点は、泣いたり笑ったりです。
前回のくるり『ばらの花』では、

安心な僕らは旅に出ようぜ
思い切り泣いたり笑ったりしようぜ

というサビのフレーズに、泣いたり笑ったりが出てきます。1行めと2行めは完全に対応する関係にありますね。「安心」の反対は「泣いたり笑ったり」です。感情の安定と不安定が対になっています。
そして、この曲が目指しているのは不安定のほう。今までの自分を打ち破って(=旅に出て)、もっといろんな感情の環境に身を置こうとしているスタンスを、私はこの曲から読み取ったのでした。
さて、若旦那『青空』では、具体的なフレーズとして泣いたり笑ったりが出てくるわけではありません。ただ、

あなたの笑顔 世界で一番美しいなんて言われたら
Wow oh
恥ずかしいけど 悔しいけど 嬉しくて笑っちゃうよ

っていうフレーズが繰り返される中、最後のサビだけは歌詞が違えてあることには注目です。

あなたの瞳 世界で一番美しい なんて言われたら
Wow oh
恥ずかしいけど 涙が出るよ 嬉しくて泣いちゃうよ

最後のところだけ、笑うところが泣くところに変わっています。泣いたり笑ったりしてる!
ここまで私は、この曲のサビのコアな部分は「笑顔が美しいって言われて、つられて笑ってしまう」っていうシンプルなエピソードだと思っていました。ただ、最後のサビがこう書いてあるなら、このメッセージはもう少し一般的に拡張しないといけないんだと分かります。たぶん「あなたのひとことで、自分の感情はこんなに揺れ動く」ってことをうたった曲なんでしょうね。若旦那『青空』は、くるり『ばらの花』が目指していた先の境地のそばにもう立っているのかもな、なんて思いました。



というわけで、若旦那『青空』でした。
今回はミクロの視点に立って、3連とサビだけに注目して文章を書いてみましたが、実はこの歌詞、構造全体もけっこうすごいことになっています。いくつか気づいたことはあるのですが、分かりやすいところをひとつだけ。
この歌詞の最初は「闇」から始まっていますね。そして最後の1行には「青空」があります。この曲は闇から青空へと移行する曲でもあるんですね!
夜から朝へと移行する曲といえば、ねごと『カロン』とかがそうでした。そういえば『カロン』は完全に物語でした。図鑑じゃないはず。
でも若旦那『青空』は図鑑の要素もあったはず。ということは図鑑と物語の二面性がこの歌詞ひとつの中にあるみたいです。見えている自分なりの答えはあるのですが、これについては別の機会にまた触れてみたいと思います☆
青空

青空

  • 若旦那
  • J-Pop
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あなたの笑顔は世界で一番美しい(DVD付)

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次回予告をします。次回はSalyu『青空』を取り上げます!

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