5日と20日は歌詞と遊ぼう。

歌詞を読み、統計したりしています。

福山雅治『家族になろうよ』

逆境が結ぶ紐帯
こんにちは。真夏のピークもいよいよ去ってしまいそうですね。空の雲のかたちが夏とは違ってきていて、フジファブリックを思い出してしまうようなお天気です。
家族になろうよ / fighting pose
さて、今日は福山雅治家族になろうよ』を取り上げたいと思います。ゼクシィのCMソングなんだそうですが、私は恥ずかしながら調べるまで知りませんでした…TV見ないからですごめんなさいo
ゼクシィといえば、木村カエラ『Butterfly』も以前取り上げたことがあります。こちらも合わせてぜひ。
曲の内容は、

いつかお父さんみたいに大きな背中で
いつかお母さんみたいに静かな優しさで
どんなことも越えてゆける
家族になろうよ

とうたわれる、しっとりしたラブソング。ゼクシィですからもちろん結婚を意識しての歌詞なのでしょうけど、それを「家族になろうよ」っていうのはストレートではない感じ。
この言葉を選んだ裏には、どんな背景があったのでしょう? いっしょに読んでみましょう。
歌詞はこちら→http://music.goo.ne.jp/lyric/LYRUTND110962/index.html
構成はこちら→A-B-サビ-A-B-サビ-サビ-アウトロ

登場人物のあしどり

この曲、サビに出てくる登場人物が家族写真みたいでステキです。

いつかお父さんみたいに大きな背中で
いつかお母さんみたいに静かな優しさで

最初のサビに登場するのは両親です。登場人物が両親なのは、まずは自然ですね。若いふたりが夫婦になるとして、その見本になるのっていちばん身近なひと世代上だと思うから。結婚式の最後に、たとえば新婦が手紙を宛てるのってやっぱり祖父や祖母じゃなくて、両親ですもんね。

いつかおじいちゃんみたいに無口な強さで
いつかおばあちゃんみたいに可愛い笑顔で

とはいえ、歌詞も2番になって考えもどんどん深まるなら、ぜひその次に控えていていただきたいのはおじいちゃんとおばあちゃんの世代です。描写はどんどん深まっていって、ふた世代上まで来ました。
でも、このあとにもうひとつサビがあります。どうしよう。これ以上の上はちょっとないけど。

いつかあなたの笑顔によく似た男の子と
いつかわたしとおなじ泣き虫な女の子と

私は、この歌詞はすごいと思いました。だって、もう世代ないもん、と思ってたから。
この歌詞に出てくるのは、「あなた」と「わたし」です。つまり、自分自身の世代。親の世代とその親の世代をうたったあとで、自分自身の世代をさらりとつなげる鮮やかさにぐっときました。
で、ぐっときたあとで、もうひとつ気づいたことがあるのです。「男の子」と「女の子」って、だれ?
いや、もう分かりますよね。主人公よりもさらにひとつ下の新しい世代のことを歌っているんだ、っていうことに。こうして、サビは3つなのに、すごく自然な流れで4世代ぶんが歌詞に織り込まれています。よくできてます。
ところでこの曲、主人公はだれなんでしょう?

いつかあなたの笑顔によく似た男の子と
いつかわたしとおなじ泣き虫な女の子

ここから分かるように、歌い手の「私」は「女」みたい。この曲は男性が歌っていますが、主人公は女性なのですね。
そういう曲は、ちょっと私は記憶にありません。たとえばレミオロメン『3月9日』が一人称は「私」になっていますが、はっきりと主人公が女性だとは言い切れません。よくよく見てみると男性だとも言い切れないのですが、私たちはレミオロメンの藤巻さんの歌声を聴きながら、やっぱり「私」を藤巻さんと結びつけて考えてしまっていると思います。たいていの曲はそうで、男性が歌っていたら曲の主人公は男性なのだと思うし、女性が歌っていたのなら主人公が女性だと思うものです、たぶん。
でもその一方で、女性の歌い手で、主人公を男性にしている歌詞は、実はちょっとあります。この間取り上げたばかりのWhiteberry『夏祭り』がそうです。

君の髪の香りはじけた
浴衣姿がまぶしすぎて

無邪気な横顔がとても可愛いくて

ふつう、オトコの髪の香りはそうそうはじけないと思います(汗)。つまり「君」は女性で、ということは必然的に主人公は男性となります。
それから、同列で扱えるのはAKB48の歌詞がそうです。このダイアリーで取り上げたことのあるAKB48『10年桜』は実はそういう性格はあまり強くないのですが、たとえば『Everyday、カチューシャ』にはこんな歌詞があります。

カチューシャしてる君に
僕は 長い恋愛中

ここでいう「僕」は男性目線ですよね。仮に男女の恋愛なんだとしたら、必然的に「僕」は男性になってしまいます。
そんなこんなで、恋愛が男女のものだと仮定した場合、歌い手と主人公の関わりを表にして、こんなふうにまとめられると思います。

  主人公が男性 主人公が女性
歌い手が男性 レミオロメン『3月9日』
ほかたくさん
福山雅治家族になろうよ
歌い手が女性 Whiteberry『夏祭り』
AKB48『Everyday、カチューシャ』
西野カナ『if』
miwa『春になったら』
ほかたくさん

なんて、しれっとレミオロメンとか西野カナとかmiwaとかの名前を出しておきながらなんですが、よくよく見てみると、これらの曲、そのどれもがはっきりと断言しているわけではないのです。主人公と歌い手の性別が同じで、異性愛を志向している、とは。つまり、上記のレミオロメン西野カナやmiwaは、一見ぜんぶ歌い手が主人公と同じ性別で、しかもヘテロセクシュアルに見えます。でも実はぜんぶBLや百合として読めるかもしれないし、そもそもラブソングと読まないほうがいいのかもしれないのです。そうやって考えてみると、歌詞にはまだまだ読むべきところがたくさんあるんだなぁと考えさせられます。
追記→YUKI『ひみつ』で、ふつうのヘテロセクシュアルじゃない恋愛読みをしてみました!

震災のかげ

ところでこの曲は震災があったから生まれたんだなぁ、と私は歌詞を読むにつけいろんなポイントで思い知らされました。

いつかお父さんみたいに大きな背中で
いつかお母さんみたいに静かな優しさで
どんなことも越えてゆける
家族になろうよ

最初のサビをもう一度引用してみました。「どんなことも越えてゆける」って、どういう意味でしょう。この新しい夫婦の前にはたぶんたくさんの困難があって、でもふたりだからそれを「越えてゆける」んだという意味に見えますね。
木村カエラ『Butterfly』には、そんな悲壮感はありませんでした。

悲しみあれば 共に泣いて 喜びがあるなら 共に笑うよ

と、まるでチョウのように軽やかです。それに比べて『家族になろうよ』には重い決心が漂います。
家族になろうよ』の2番のサビの最後は、

あなたとなら生きてゆける そんなふたりになろうよ

こんな感じです。「あなたとなら生きてゆける」の対偶はたぶん、生きていけないのは、あなたがいないからだ(意訳)って感じ。対偶をとっている時点でいじわるなのは自覚的ですけど、それにしてもすごいと思います。この、愛することと生きることとの強固な結びつきが。
そしてなにより、この曲のタイトルがすごいですよね。家族になろうよ」はきっと「結婚しようよ」という意味なのでしょうから。
今年は震災のこともあって、家族の絆のようなものがやんわりと注目されているような感じがあります。困ったときにほんとうに助け合えるのは家族だね、みたいな時代の雰囲気は何となく感じます。


大規模なアンケートとかでも、例えば夏休みは家族と一緒に過ごす人が多いらしいことが分かっています。家族とのコミュニケーションを密にしようとする行動のあらわれじゃないかな、と私は思います。
http://www.meijiyasuda.co.jp/profile/release/2011/pdf/20110804_1.pdf
そんな時代、愛するふたりは愛だけではなくてもっと強固な紐帯でつながれていたいですね。だから、単なる愛ではなくて家族という言葉がこの曲に生まれたのでしょう。軽やかなラブソングもいいけれど、いま福山雅治が紡ぐなら、こういうアプローチがいちばんだったんでしょう。

つながリンク

前回はWhiteberry『夏祭り』を取り上げました。今回の福山雅治家族になろうよ』との共通点は可愛いです。
『夏祭り』には、

無邪気な横顔がとても可愛いくて

という「君」の描写の中に「可愛い」があります。ここでは「君」本人が、自分の魅力に対してぜんぜん自覚を持っていないことにこの間は触れたんでしたよね。主人公が「可愛い」と思っているのは「君」の笑顔だけじゃないはずです。たぶん、その笑顔の背景にある、君の無自覚さもひっくるめて、それに対して魅力を感じているんでしょうね。だから「可愛い」という、ちょっと対象を低く見ていとおしむような、そういう表現になっているんじゃないかと思いました。
一方、福山雅治家族になろうよ』では

いつかおじいちゃんみたいに無口な強さで
いつかおばあちゃんみたいに可愛い笑顔

という2番目のサビに「可愛い」が出てきます。「可愛い」おばあちゃんっていますよね。その気持ちは分かる気がするのですが、注目に値するのはさらにそのあとです。

いつかあなたの笑顔によく似た男の子と
いつかわたしとおなじ泣き虫な女の子と

この短い歌詞の中で、かなり狭い範囲で連続して「笑顔」が出てきているのには、なにか理由はないんでしょうか。主人公は「おばあちゃん」の笑顔と、「あなた」の笑顔をつなげて考えているのでは?
とすれば、あなたの笑顔が可愛いという結びつけができるはず。
「可愛い」はどちらも、恋人に向けられた表現なのかもしれないですね。



というわけで、福山雅治家族になろうよ』でした。
実は私の音楽の好みはかなりかたよっていて、男性ソロの歌い手を取り上げるのは、このダイアリー始まってから、森山直太朗『さくら(独唱)』とこれの2度だけなのです。少ない。
それに割と自覚的だった自分は(JUDY AND MARY『小さな頃から』を取り上げたときもちょっと書きましたが)今年の最初に以下の4つのジャンルから少なくとも1つは取り上げるぞ、と心の中に決めていました。
内訳が、

の4つ。達成率はこれでやっと50%なので、残りがんばろうと思います(汗)。

家族になろうよ / fighting pose

家族になろうよ / fighting pose

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