5日と20日は歌詞と遊ぼう。

歌詞を読み、統計したりしています。

NIKIIE『HIDE & SEEK』

-失恋した友だちへ-
こんにちは。
やっぱり!って思いましたよ私。ZONEが再結成を果たしました! ZONE『secret base〜君がくれたもの〜』の歌詞を今年の早い時期に取り上げたのはそのためだったのでした。予想が当たることはあんまりないのでうれしい♪
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さて、でも今回はNIKIIEを取り上げたいと思います。表面的にはZONEとは関係のない曲です。少し前にCMの曲としてたくさんOAされていましたね。

スタートをしたなら
ゴールが見たいなら
後悔だけはしないで
サヨナラしたんだよ
次、踏み出すため
私のことはもう忘れて
走ってくんだよ

サビの歌詞はこんな感じ。メロディがすごく気持ちいいです。「私のことはもう忘れて/走ってくんだよ」って書いてある歌詞からはこの曲は「君」に歌いかける曲だということがわかりますが、そうやって二人称に歌いかける曲、前にも取り上げたことがあるような気がします。なにか特徴があったんでしたっけ。どんなでしたっけ?
今回はそこを考えてみることにしましょう。
歌詞はこちら→http://music.goo.ne.jp/lyric/LYRUTND108548/index.html
構成はこちら→A-A-B-サビA-B-サビ-(間奏)-C-サビ

「君」に歌いかける曲は、

二人称が主人公の曲は、土岐麻子『Gift〜あなたはマドンナ〜』で取り上げたことがあります。

あなたって不思議だわ あなたっていくつなの
シュペリエルな シュペリエルな
あなたはマドンナ

『Gift〜あなたはマドンナ〜』はこんな歌詞で始まります。『Gift〜あなたはマドンナ〜』は、あなたへのギフトは私にとってもギフトだと言い含めているんじゃないかな、と私は前に読みました。つまり、呼びかけている「あなた」の先に、自分自身のことも見つめているのかな、と思ったわけです。
NIKIIE『HIDE & SEEK』も同じかもしれません。サビをもう一度 引用しましょう。

スタートをしたなら
ゴールが見たいなら
後悔だけはしないで
サヨナラしたんだよ
次、踏み出すため
私のことはもう忘れて
走ってくんだよ

後悔だけはしないで」「サヨナラしたんだよ」「走ってくんだよ」こういう文末になる表現、丁寧に丁寧に、主語を省略してあります。「私のことはもう忘れて」って書いてあるから主語が「君」なのは明らかですが、でもあえて主語を書かずに置いといてあります。それは、歌い手が自分自身にも言い含めているからではないかと思うのです。
それは2番のサビでも同じです。

出来るだけ遠くで君を見ているよ
振り向いたりしないで
サヨナラしたんだよ
次、踏み出すため
私のことはもう忘れてぶつかってくんだよ

振り向いたりしないで」「ぶつかってくんだよ」と、先ほどと同じように、強いメッセージを持った歌詞が並んでいます。これも丁寧に主語が省かれているのにもかかわらず、ちゃんと主語が二人称だと分かるようになっていますね。そして、きちんと主語が分かるようになっているのにもかかわらず、主語が書かれていないことによって、読んでいる私たちはあれこれ空想を広げることができるようになっています。自分自身と重ね合わせているんだね、とか。

かくれんぼはごっこ遊び

私のMacに入っているプログレッシブ英和中辞典によると、「hide-and-seek」には、


かくれんぼう;⦅比喩⦆避けること, ごまかすこと
という意味があるそうです。この歌詞の中でかくれんぼっぽい部分といったら、1番のBメロですね。

鬼さん、こちら手の鳴る方へ
私が全部隠したの

この曲は全般に「君」に向かって歌いかける体裁ですから、「鬼さん」っていったらそれはたぶん「君」のことです。あなたがさがしているものは、私が隠したのって歌いかけていることになりますね。
でも、本当はそんなはずないのです。

君は何を探しているんだい
今にも泣き出しそうなひどい顔してさ

この歌詞の最初はこんな感じ。君の探しようはリアルで切迫感があります。だれかが隠したものを探しているのではなくて、失ってしまったものを必至で捜しているのです。
かくれんぼはごっこ遊びです。ごっこ遊びって、あるお約束の世界の中でするお芝居です。かくれんぼも逃げる側はある決まった範囲から出てしまったらルール違反ですし、探すほうも助けを呼んだり、人感センサを使ったりしたらがっかりです。そこまでしなくても、かくれんぼは楽しいんだから。
でも実際には、君は「今にも泣き出しそうなひどい顔」して探しているし、歌い手にどう言われようがやめる気配はありません。そこで歌い手は「私が全部隠したの」と言い出します。
これは、歌い手の優しい嘘なのではないかと思うのです。たぶん「君」が探しているものはもう見つからないものです。過去の思い出の世界に属するものです。だから探しても見つかるはずがありません。そういうときって、気持ちは生産的ではない方向へと傾きがち。死者に会うために壺を買ってしまったり、そういう平時では考えられないことが起きてしまうのはたぶんそのためです。君の目は、どこか異世界のほうを向いてしまっています。帰って来られるかどうか。
そこで歌い手は、

鬼さん、こちら手の鳴る方へ
私が全部隠したの

と歌います。君の目は、歌い手のほうへ向くのです。こちらの世界へ戻って来なくちゃ、という意志がそこには感じられるはず。歌い手はこんな風にうそをついて、君をこちら側の世界に連れ戻そうとしています。その試みはもちろん自分自身にも向いているでしょう。ちゃんとこっちに戻って来なくちゃ、そういう思いがあることはもう、明白です。

「失ってしまったもの」は、なに?

たぶん、「私」も「君」もなにかを失ってしまったのでしょう。それはいったいなんでしょう?
人の死だとすると、この歌詞と比べてちょっと重すぎ。でもアクセサリーとかそういうモノ系よりも重いんじゃないかな?
失恋だったらどうでしょう?
「私」と「君」は友だちです。で、同時期に失恋してしまいました。こんなシチュエーションだと、わりとぴったりです。

君は何を探しているんだい

1行のこの答えは昔の恋、ということになります。

スタートをしたなら
ゴールが見たいなら
後悔だけはしないで

たぶん「君」にはすでに次の恋が訪れているのだと思います。ただ「君」自身はまだその恋に乗り切れていません。気持ちはどうしても前の恋を引きずってしまっている、っていう感覚があるとすれば、なんだかすんなり解釈しきれますね。

私のことはもう忘れて
走ってくんだよ

新しい恋の気配がある「君」に比べて、歌い手はまだ前の失恋の傷が癒えないままです。「君」はそれを気にしているのかも。「私」のことを気にかけてくれるあまり、新しい恋に走り出せないのかも。
だから歌い手は「私のことはもう忘れて」っていう風に言っているのかもしれないですね。ここで「走る」という動詞を選んだのも、勢いに任せて進んでしまえ、っていうイメージが感じられてぴったり。

本物かどうかも知らずに
それをどう信じるんだい?

前の恋は、本物の恋じゃなかったんだ、って歌っているみたいに聞こえるのです。どうせあんな男、ろくなやつじゃなかったんだ、みたいな。

だけどそんな君も素敵だ
私は全部受け止めよう

これって、男性から女性に向かって言うほうがぴったりくる表現みたいな気がします。けどいまの「君」はそんな境遇にありません。だから代わりに、歌い手は言ってあげるのです。「そんな君も素敵だ」って。

私もそろそろ行かなきゃ
私もそろそろ・・

いままで、いろんな曲でCメロの特異性に気づいてきました。この曲もそうですね。Cメロだけ、主人公が「私」になっています。アレンジもここだけちょっとしっとりして内省的。この部分があるからこそ、「君」と「私」が重ね合わせられている、っていう解釈にたどりつけたりするわけです。そして、この部分があるからこそ、最後のサビの少しの変化に気づくことができます。

スタートをしたなら
ゴールが見たいなら
後悔だけはしないで
サヨナラしたんだよ
次、踏み出すため
思い出は風に預けて
走ってくんだよ

「私のことはもう忘れて」とはもう言いません。自分のことに引きつけてみたら、分かったのでしょうね。忘れることと引きずること。このふたつは二者択一ではないのだと、歌い手は気がついたからです。

つながリンク

前回 取り上げたのはphatmans after school『マイパレット』。今回の曲との共通点は「スタート」です。
『マイパレット』では、

「今の時代はストレスだらけで嫌になるよ」 新人類は語る
いっそ総て0からのスタート
「いつの時代も人間様には嫌になるよ」 かの神様は語る
感情機能OFFからのスタート

という1連に「スタート」が出てきます。前回、私はこの曲を自画像を描く曲だと解釈しました。その場合この「スタート」は描き始めって解釈ができそう。そして曲の最後は、

ただいま 僕だよ

です。つまり『マイパレット』では「スタート」は曲全体のスタートでもある位置に置かれています。そして最後には戻ってきたことを示す「ただいま」という言葉で終わっています。この曲の「スタート」と「ただいま」という言葉は、そのままメタ的にこの曲の中での位置づけを示す意味も持っています。
一方でNIKIIE『HIDE & SEEK』では「スタート」にそんなに重篤(?)な意味はないみたいです。ここでは単に、新しい恋の始まり的なニュアンスだけが私には響いてきます。でも、そうだとするとこの「スタート」とセットになっている「ゴール」の意味が気になりますね。ゴールってなに? 結婚? それとも心の傷の完治?
いろいろ考えましたが、もしかして「ゴール」なんてない、っていうのが正解なのかな、って私は思いました。だって、かくれんぼにはゴールないし。悩みの渦の中にいる「君」がゴールを探し求めているのだとしたら? でも「私」は、そんなものなどないって知っているのだとしたら?
「君が言う“ゴール”っていうものが見たいのなら、サヨナラしなくちゃね(ほんとはゴールなんてないけど)」
歌い手のそんな声を想定したら、また少し筋が通った読み方になったような気がしました。



ところで、前にRADWIMPS『有心論』と、広末涼子『majiでkoiする5秒前』比べてみたとき、今回と似たようなことに気づきましたよね。RADWIMPSは「2秒前」をメタ的にも扱っていたのに対して、広末涼子は「5秒前」をそういう風には扱わなかったのでした。男性のアーティストと女性のアーティストの違い?とかも考えたのですが、でもでも。そもそも歌詞の中で単語がそんな風にメタな使われ方をすること、あまりないような気がしてきた…。
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