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5日と20日は歌詞と遊ぼう。

毎月5日と20日に、J-POPやボカロ曲などの歌詞を読んだり、統計したりしています。twitterは@hacosato。

いきものがかり『ありがとう』

-過去は現在につながり、未来へと続く-
明けましておめでとうございます。このダイアリーを1年も続けられるなんて、ちょっとイメージしてなかったhacosatoです(!)。
ありがとう
紅白歌合戦は見ましたか? みんな、1曲をぜんぶフルで歌ったりしないんだっけ?ととぼけた感想を持った私ですが、ちゃんと植村花菜『トイレの神様』はフルでしたね。
で、今回は紅白歌合戦に登場した曲の中からいきものがかり『ありがとう』を取り上げてみたいと思います。2010年に露出がすごく多かった曲だと思うので、本当なら去年のうちに取り上げるのが筋だった気もしますが…それはまあ、hacosatoなんで(汗)。
歌詞を見てみると、

“ありがとう”って伝えたくて あなたを見つめるけど
繋がれた右手は 誰よりも優しく ほら この声を受けとめている

っていうサビのフレーズが印象的。ここの部分は、長年寄り添った老夫婦みたいな安定感のあるふたりをイメージさせますね。この曲がNHKの連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』のために書き下ろされたこととも関係しているのかもしれません。でも、このダイアリーではタイアップとかについてはあんまり触れません。だって『ゲゲゲの女房』見てなかったし。細かいとこまで知らないし。ボロ出るとこわいし。
でも、歌詞ならすぐに見られます。ちゃんと合ってるだろう内容にすぐ目を通すことができます。だから、手がかりは歌詞だけ。歌詞だけで、どこまで遠くに行けるでしょう?
歌詞はこちら→http://www.uta-net.com/user/phplib/view_0.php?ID=94247
構成はこちら→サビ-A-B-サビサビ-A-B-サビ-(間奏)-サビサビ

過去、現在、未来

さて、この曲のタイトル『ありがとう』を考えてみましょう。
「ありがとう」っていう言葉は、相手の“これまで”に対して感謝する言葉です。ありがとうの対象をはっきりさせるときには例えば

  • おみやげをくれてありがとう。
  • あのとき話しかけてくれてありがとう。
って風に、相手の過去の動作を取り上げて、それに対してうれしい気持ちを伝えるわけです。
ポジティブな気持ちを相手に伝えたいシチュエーションは人生たくさんあります。相手の過去に対してなら「ありがとう」っていう言葉がそういうときにぴったりです。でも相手の未来に対してそういう気持ちを伝えようとするときそれは似合いません。いややっぱちょっと変でしょう(アスタリスクは文として不適切だという印です)。
というわけで、専門家でもないのに私は「ありがとう」は相手の過去に対してうれしい気持ちを伝えるもの、との結論に至ったのでした。
ところで、いきものがかりのシングルを見てみましょう。この記事を書いている時点での最新のオリジナルアルバムは『ハジマリノウタ』。それ以降にリリースされたシングルが次のアルバムに入るのかなと勝手に予想した場合、該当するシングルは最新3曲です。『ノスタルジア』『ありがとう』『キミがいる』ですね。さて、タイトルを見比べて、なにか気付くことはありませんか?
…じゃ、ヒント。「ありがとう」という言葉は過去を向いていました。残りの2曲は?
残りの2曲にも、ちゃんと向いている時制があるところが特徴的だな、と私は思うのです。『ノスタルジア』は過去。『キミがいる』は明らかに現在です。いきものがかりのシングルをもう一度ながめてみても、こんなに時制がはっきりしたタイトルがつくようになったのはいくつかの例外(『茜色の約束』と『帰りたくなったよ』ぐらいかな?)を除けばつい最近みたいです。新しいアルバムは過去・現在・未来を切り口にしたりしないかなぁ?と私は勝手に期待してます。
シングルのタイトルと、タイトルを見るだけで何となく予想できそうな時制を簡単にまとめてみます♪ 最近のぶんだけ。

タイトル 時制
YELL 未来
じょいふる 現在
なくもんか 現在
ノスタルジア 過去
ありがとう 過去
キミがいる 現在

このノリでいくと、そろそろ「未来」とかくるのかな…?なんて。

いきものがかり流、音の選び方

「時制」なんていうコトバを多用したあとで、今度はライムとかについて考えてみようと思います。日本語学者みたいな切り口ばっかりですが、ぶっちゃけそういうの知識ほとんどないです。今年はちょっとわかるようになりたい…。
ところで、みなさんいきものがかりっていうバンドにはどんなイメージを持っていますか?
ちょっと寄り道しますが、Wikipediaによると「バンド名はメンバーの水野と山下が小学生時代に金魚に餌をあげる「生き物係」だったことに由来する」とのことです。だのにバンド名はひらがなの「いきものがかり」なんですよね。ここ、ひらがなになっているあたりで、私はこのバンドに素直で伸びやかなイメージを持っています。ボーカルの声も癖が少ない感じだし、曲もひねくれてないのが多いって思っています。とがってるというよりまるっこくて、ねじれているっていうよりストレートで、すごくかっこよくはないけど等身大で、という、そんなイメージ。
そしてこの曲、選ぶ言葉も背伸びのない素直なフレーズが中心になっています。
特にそれがよく分かるのはサビの部分の冒頭です。

“ありがとう”って伝えたくて あなたを見つめるけど

これが最初のサビの冒頭。その他にも同じメロディに乗っているフレーズを全部引用してみると、

いつまでも ただ いつまでも あなたと笑っていたいから

思いあうことに幸せを あなたと見つけていけたら

“あいしてる”って伝えたくて あなたに伝えたくて

と、こんな感じ。見て気づくと思いますが、サビの冒頭はぜんぶア行で始まっています。子音が入ってこないのなら、のどからやってきた声が唇のかたちだけに決められて声になっているってことですよね。きっとそういう小さなところから、この曲の伸びやかな感じが形成されているんだと思います。
聞いているだけでは分かりませんが、表記もとげとげしくならないようにちゃんと練られているんじゃないかと思います。だって、そうですね、1番のAメロを引用しましょう。

まぶしい朝に 苦笑いしてさ あなたが窓を開ける
舞い込んだ未来が 始まりを教えて またいつもの街へ出かけるよ
でこぼこなまま 積み上げてきた ふたりの淡い日々は
こぼれたひかりを 大事にあつめて いま輝いているんだ

ひらがな多っ!
「ひかり」「あつめて」「いま」のあたりは、たぶん統計をとったら漢字で書く人のほうが多いのではないかと思います。でもここはあえてひらがな。そうすることで、「ひかり」は真夏の日中の刺すような光ではなくてもっと穏やかな季節の朝の光に変わります。「あつめて」は必死さも手広さもない代わりに、両手で抱えられるぐらいのちょうどいい大きさを読み手にイメージさせますね。
「またいつもの街へ出かけるよ」って書いてありますからここは特別な朝ではなくてたぶん特にイベントもないような平日の朝なんでしょう。そんなシチュエーションをたくさんのひらがなで描くことによって、その日常の中にちょうどよく収まるようなイメージがちゃんと私たちのところへ伝わってきます。
歌詞のほかの部分を見渡してみても、この歌詞には特に大きな事件は起きません。ふたりで過ごす朝といっても、別に前の晩になにか大きな出来事があったわけでもなさそうな朝ですし、これから重大事件が起きそうな1日の始まりってわけでもありません。シチュエーションだけじゃなくて、特にすごいキラーフレーズがあるわけでもないし、考えてみればタイトルだってありきたりです。でも、そんな特徴のすべてが日常のほうを向いているし、ちゃんとその日常が最後にはきちんと焦点を結ぶ(の話はあとでしましょう♪)のだからよくできてるなぁ、って思います。


Every Little Thing『しあわせの風景』のことを私はちょっと想起しました。ひらがなの使い方もそうだし、シチュエーションもちょっと似ていていい感じ。もちろん、曲全体の中におけるそのシチュエーションの位置づけとか、大きい違いはたくさんあってそれがまたおもしろいんですけど、ね。

繋がれた右手は未来のために

誰かのために生きること 誰かの愛を受け入れること
そうやって いまを ちょっとずつ 重ねて
喜びも 悲しみも 分かち合えるように

2番のBメロを引用してみました。この曲の恋愛観はこんなふうに、ちょっとずつを分かち合うことで、別々に生きるよりももっと幸せになる、って方向を向いているみたい。きっとそれは、曲の冒頭から手をつないでいることとも関係しているのでしょう。手をつなぐことって、手のひらの空間を共有しあうことですからね。

“ありがとう”って伝えたくて あなたを見つめるけど
繋がれた右手は 誰よりも優しく ほら この声を受けとめている

最初のサビを引用しました。2行め、手が、「声を受けとめている」のですから、きっとこの「繋がれた右手」は「あなた」の手です。1行めからの流れを汲むなら、“ありがとう”と伝えたくてあなたを見つめると、それだけで思いはあなたに伝わる、って状況をこのサビは描いています。まるで長く連れ添った夫婦のように、伝えたい思いは言葉にしなくてもちゃんと伝わるふたりです。
でも、ふたつめのサビはちょっと読むにあたって迷うところがあるのです。

“ありがとう”って伝えたくて あなたを見つめるけど
繋がれた右手が まっすぐな想いを 不器用に伝えている

私が迷っているのは「繋がれた右手」です。ここ、歌い手である「わたし」の手とも取れますが、「あなた」の手とも取れるのでした。もし歌い手の手だったとしたら、伝えたくて見つめていたけど、手をつないでいたらそこから伝わってしまうよ、という意味に取れます。「繋がれた右手」があなたの手だったとしたら、私が伝えたくて見つめていたけれど、実はつないでいる手から、あなたも同じ思いだってことが伝わってきたよ、って意味になります。どっちもステキだー! でもどっちだー!(≧▽≦)
ちょうど1年前、Chara『TROPHY』を取り上げたときにも、同じ状況が起こりました。そして私は、どっちとも取れるのならどっちもアリじゃね?と結論づけたのでした。だから今回も同じです。「繋がれた右手」はわたしの手でもあり、あなたの手でもあります。つながれた手を区別しなくていいぐらいに、ふたりは親密なのです。
で・も・ね。
最後のサビを見てみましょう。

“あいしてる”って伝えたくて あなたに伝えたくて
かけがえのない手を あなたとのこれからを わたしは 信じているから
“ありがとう“って言葉をいま あなたに伝えるから
繋がれた右手は 誰よりも優しく ほら この声を受けとめている

伝えたい言葉が「あいしてる」に変わります。ほかはずっと「ありがとう」なのに、最後の連を迎えたここだけ「あいしてる」です。なぜでしょう。
本当に伝えたかった言葉は「あいしてる」だったのに、恥ずかしくて言えなかっただけなの、かも。
根拠はないですが、そんな風に思ったりしてます。歌詞全体の中でここだけに「わたし」が出てくるのもポイントかもしれません。以心伝心でなんでもできちゃう関係に甘えていたところから、一歩抜け出したように思うから。
そういう風に考えたら、最後の最後に

“ありがとう“って言葉をいま あなたに伝えるから

ってフレーズがくるのにはすごくぐっときますね。いままで「伝える“けど”」と、ずっと逆接で来ていたのに「伝える“から”」と意志の強い順接に変わるから。ふわっとした甘い関係からは離れて、でも対峙するんじゃなくて、いままで曖昧にしていた感情を、ちゃんと言葉に出して伝えられるように、歌い手の気持ちは変わったんだな、と思って。

つながリンク

前回取り上げたのは、植村花菜『トイレの神様』でした。今回の曲と比べてみましょう。共通点はもちろん、「ありがとう」。
トイレの神様』は、歌い手のおばあちゃんとの思い出をたくさんの言葉で綴った歌詞が特徴的です。「ありがとう」が出てくるのは最後の最後。

気立ての良いお嫁さんになるのが夢だった私は
今日もせっせと、
トイレをピカピカにする


おばあちゃん
おばあちゃん
ありがとう、


おばあちゃん
ホンマに


ありがとう

「ありがとう」が出てくるのはここだけで、存命のおばあちゃんとの思い出を描いている部分では、「ありがとう」は出てきません。だとするとこの「ありがとう」はおばあちゃん亡きあとに、元気だったころのおばあちゃんを思い出して、そのおばあちゃんに向けて放った「ありがとう」なのでしょう。過去のおばあちゃんに対する「ありがとう」があって、この曲は終わるのです。
一方、いきものがかり『ありがとう』だとどうでしょう。
「ありがとう」なんて過去に向けるだけの言葉だ、そんな風に考えていた時期が私にもありました。確かに、歌詞の前半はそういうスタンスで解釈していってもなんの破綻もきたさないのです。なのに最後の最後で、

“ありがとう“って言葉をいま あなたに伝えるから

ってフレーズが出てくるなんてー! 「ありがとう」を“いま”伝えるなんてー!
私は油断してました。もちろん、その言葉はちゃんと言葉になってあなたの元へ届くんでしょう。そしてきっと過去だけじゃなくて、未来へもつながっていくんでしょう。
そう気づいたら、最初はあまりぴんと来なくて読み飛ばしていた部分の意味もちょっとずつ分かってきそうな気がします。2番のAメロにこんなフレーズがありました。

真っ白なこころに 描かれた未来を まだ書き足していくんだ

そっか、このふたりはきっと、「ありがとう」って言葉を使って未来をつくっていたんだ。



というわけで、いきものがかり『ありがとう』でした。
私はついこの間、誰かに対してポジティブな気持ちが浮かんだらその場でちゃんと伝えよう、と決めました。ステキな服をほめようと思うし、手伝ってくれることに感謝しようと思ったのです。そんなことをこないだ決心して、で何の気なしにこの曲を読んでいたら、こんな読みになっちゃいました。私が思ってることとシンクロしてる! 偶然ってすごい!
…違うと思います。たぶん、私がそう言う気持ちでいたから、『ありがとう』を読んでいたらその歌詞の先に自分のメンタリティを見てしまったんでしょう。歌詞の読みって、読み手の心象風景が反映されるものなのかもしれないですね。
私はこのダイアリーに自分の内面なんてほとんどさらしていないつもりですが、もしかしたら本人の自覚もないのにものすごーくリークしている可能性もありますね(!)。まだ自覚症状はないです。びくびく。
というわけで、今年もよろしくお願いいたします。
ありがとう

ありがとう

バラー丼

バラー丼

ありがとう

ありがとう

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