5日と20日は歌詞と遊ぼう。

歌詞を読み、統計したりしています。

RADWIMPS『有心論』

-揺れた気持ちの目的地は?-
有心論
今回はRADWIMPS有心論』を取り上げます。なにしろ

誰も隅っこで泣かないようにと
君は地球を丸くしたんだろう?

っていうキラーフレーズは有名みたいで、わたしもぐっと来た結果いまこうして歌詞を読んでいます。曲を知らなくても耳にしたことのある人は結構いらっしゃるのかもって思います。ってかRADWIMPSってキラーフレーズ多すぎ。
でもこの歌詞をひと通り読んだ私は、『有心論』のハイライトはここじゃないみたいだと思うようになりました。
どこでしょうね。
歌詞はこちら→http://www.uta-net.com/user/phplib/view_0.php?ID=44289
構成はこちら→A-A-A-A-A2-サビ-サビ-C1-C2-サビ-サビ-A-サビ-サビ-サビ-サビ

揺れる気持ちに合わせて揺れる

今回の『有心論』はすごく長い歌詞です。しかも繰り返しもほとんどないのでかなりの情報量です。むむむ。どうやって考えていこうかな。
でも構成を見て、ざっと歌詞の内容をさらうだけでも、どういうストーリーになっているのかは実は簡潔に示されています。最初はそこを見ておきましょう☆
特に7連、13連、15連に注目です。「〜者は〜者に」という特徴的な漢語が並んでいる部分、ここを拾うだけでもストーリーは結構 分かります。
7連

人間不信者は(〜)人間信者

13連

人間信者は(〜)自殺志願者に

15連

自殺志願者は(〜)永久幸福論者

※色分けはhacosato。
と変遷しています。おお一目瞭然。最初ネガティブな状態からスタートした僕は、ポジティブになったあとで再びネガティブに戻り、最後にまたポジティブになって曲が終わります。ネガティブの状態からスタートしてポジティブに終わる曲はBUMP OF CHICKEN『オンリーロンリーグローリー』のようにいくつも思い浮かびますが、こんなにはっきりと揺れる歌詞はちょっと記憶にありません。
気持ちがぶれところを描くなら、揺れていますよーっていうことを端的に表すぐらいで済ますのがほとんどのような気がします。でもこの曲は違います。「Aの方向に振れたあとで、今度はBの方向に振れた」その足跡がきちんとたどれるようになっています。揺れそのものを描くのではなくて、気持ちの内容を描くことによって結果的にその軌跡が揺れている、という点にこの曲のおもしろさがありますね!

人間不信者の思考回路

というわけで、そのそれぞれのステップで「僕」がどんな風に考えていたのかを追いかけてみることにしましょう。
最初は人間不信者の状態からスタート。

今まで僕がついた嘘と 今まで僕が言ったホント
どっちが多いか怪しくなって 探すのをやめた

1連はこんな風にして始まります。2連も同じような曲調で同じような内容。この内省的な感じが、人間不信の暗い影を僕の心に落としているように見えます。嘘とホント、どっちが多いのか考えて、きっと考えるのをやめたくなるぐらいに嘘が多いことに気づいたんでしょうね。そういう雰囲気は2連も同じです。そんな風にこの曲は、自己嫌悪の描写から始まっています。
自己嫌悪は他者への嫌悪にもつながっています。それを描いているのが3連です。

どうせいつかは嫌われるなら 愛した人に憎まれるなら
そうなる前に僕のほうから嫌った 僕だった

という部分がストレートにその心境を表しているみたいに読めます。

人間信者の思考回路

でも、4連になると事態は急に変わります。3連までは自己への嫌悪が他者への嫌悪に変わっていました。だとすれば、他者への肯定と自己の肯定だって常に裏表の関係です。だから、

〜愛されたいとそう望むなら
そうなる前に 僕の方から

愛してみてよと

という歌詞につながるのです。この瞬間、人間不信者人間信者に変わったのです。
人間信者になった僕はCメロへと突き進みます。9連「こんなキャッチフレーズを書こう」の「こんな」が指しているのは8連全体(「君は人間洗浄機〜」)。テレビショッピングみたいなありふれたフレーズのコラージュですが、この歌詞自体はぜんぜんありふれていません。だって、ふつうテレビショッピングのフレーズの主人公を「君」にしたりしないし。でも「君」はモノじゃなくて、確実にカタチのあるヒトとして描かれているみたい。だって、

君があまりにも綺麗に泣くなら 僕は思わず横で笑ったよ
すると君もつられて笑うから 僕は嬉しくて 泣く 泣く

でしたよ。引用したのはCメロの直前、6連です。ここに出てくる「君」は恋人みたいな雰囲気ですね。少なくともキャッチフレーズに乗せられて売られる売り物みたいな扱いじゃありません。いつの間に君は恋人(っぽい存在)ではなくなったのでしょうか。恋人でなくて、どんな存在なんでしょう?
Cメロに答えは書いてあります。

君は世界初の 肉眼で確認できる愛
地上で唯一出会える神様

「君」は「愛」になり「神様」になりました。え、それが理由? なにそれ。
なにそれはあとで考えることにしましょうか。とにかくここでは、君の存在が大きく転換したことだけ押さえて、先に進んでみましょう。

誰も隅っこで泣かないようにと
君は地球を丸くしたんだろう?

誰も命 無駄にしないようにと君は命に終わり作ったよ

10連と11連のそれぞれ冒頭です。もう6連みたいな人間味のある君はいません。今や君は地球を丸くできるし、命の終わりを作れる存在です。なにそれ神かよって思っちゃいます。でも繰り返します。
君は神様です。だから問題はない。ない。ないよね…?

自殺志願者の思考回路、そして永久幸福論者へ

10連と11連のそれぞれ後半は、

だから君に会えないと 僕は隅っこを探して泣く 泣く

だから君がいないその時は 僕は息を止め 待つ

って表現になっています。どっちもすごく似ていますよね。君がいないと僕は、君が作った世界の一番 端を目指す、っていう点がそっくりです。世界の隅っこは文字通り 君が作った世界の端ですし、息を止めた先にあるのは窒息死(つまり生の端)ですから。
どうしてそんなことをするのかというと、そうすることで僕は君に会うことができるからです。世界が神さまの手のひらの上にあったとしましょう。そんな世界で、私たちが世界の端まで来てその先に足を踏み入れたとしたら、そこはもう世界じゃなくて、神さまの領域です。そしたら神さまは反対の手で私をつまみ上げて、軽くいさめて、私をもとの世界に連れ戻してしまいそうです。世界の端まで行けば、私たちは神さまに会えるのです、たぶん。この歌い手もこんなようなことを考えたのでしょう。
でも神さまはいなくなってしまいます。歌い手の思考回路は自殺志願者へと後戻り。君(=神)に触れてせっかくポジティブに転じた思考は、またネガティブへと戻ってしまうのでした。

3分前の僕が また顔を出す

13連にのこれはすごくおもしろいなぁと思いながら私は読んでいました。だって3分前って、ちょうどこの曲の始まったあたりに当たるんですから。ここに出てくる「3分前」は、単純な「ちょっと前」とかを表すんじゃなくて、歌われた時点から正確に3分前を指し示しているみたいなのです。すご。
でも僕は再び永久幸福論者(つまりポジティブ)に戻ることができます。なぜなら君に会えたからです。

息を止めると心があったよ そこを開くと君がいたんだよ

14連の冒頭に書いてある通りです。
「息を止める」って表現は11連にも出てきました。そのときには君に出会うために止めてみたんでしたよね。そして、そのとき君には会えなかったのです。
なのに、14連でやっぱり君に会うことができています。息を止めても君に会えないと思って落胆していたけれど、予想とは違うかたちでやっぱり出会えたことへの喜びが伝わってきますね!

左心房に君がいるなら 問題はない ない ないよね

後半の畳み掛けるような繰り返しはすごく切実な響きを連れてきます。思ったのと違うかたちで君に出会えたことに対して、戸惑いをちらつかせるような繰り返しです。ほら、疑問文を繰り返すときって、答えに自信が持てないとき、だったりしましたよね。Chara『TROPHY』の回も見てみてください。

この心臓に君がいるんだよ 全身に向け脈を打つんだよ
今日も生きて 今日も生きて そして今のままでいてと
白血球 赤血球 その他もろもろの愛を僕に送る

最後の連です。君を内面のものにした僕は強いですね。
私はこの記事の冒頭で、この曲のハイライトはどこなんだろう、って話をしました。個人的には、ハイライトはここです。長いプロセスを経て、やっと“永久”幸福論者になった僕はもうポジティブさを失いません。君を内面のものにした実感をひしひしと感じさせるこの部分は、すごく強いと思うのです。

まとめ

前回は広末涼子『majiでkoiする5秒前』を取り上げました。今回の曲との共通点は「×秒前」です。
majiでkoiする5秒前』では、サビの直後に

“ゴメン!”と笑いかけて 走り寄るまなざしに
MajiでKoiしちゃいそうな約束の5秒前

っていう部分があります。5秒前です。前回も書きましたが、約束の時間を心の中でカウントダウンとかしないと5秒前かどうかなんて分かりませんよね! つまりそれだけ心の中で待ち続けてきた大切な時間が始まる、っていうのをこの「秒前」はよく表していると思うのです。しかもそれをタイトルに据えるあたり、さすがだなぁと思ってしまったのでした。でも、ここでいう5秒はきっときっかり5秒じゃないでしょう。そうじゃなくて、「もうすぐ」みたいな意味を表しているように見えます。
今回の『有心論』ではどうでしょうか。

2秒前までの自殺志願者を 君は永久幸福論者にかえてくれた

って部分があります。歌詞を読んでいてもわかりませんが、実際にはこの直前に時計の音が2秒ほど入るアレンジになっています。
その時計の音の直前はというと、連をはさんだ向こう側。僕は自殺志願者の心境だったんですよね。つまり、ここでいう「2秒前」は、この音楽の中の時間軸で正確に2秒前を指し示しています。この点が、この曲の「秒前」観を特徴的なものにしていますね。「3分前」もそうでしたが、曲の中で時間軸の整合性をとることによって、ファンタジックな世界にも地平線とかが引かれていくんですね。



ところで。この曲について、ちょっと違う点が気になったりしませんか? 「君」って、どうして神様になっちゃったわけ?
ちょっと考えたのですが、「僕」は「君」と死別したのかな?とか思ったりしました。
曲の冒頭で、僕は人間不信者です。それを君が救い、僕は人間信者になります。ところがCメロの直前で、死がふたりを分かつのでした。僕は再び自殺志願者へと後戻り。でも最後に君の思いを内面に取り込むことができて、永久幸福論者になれたのだとしたら?いろんな点のつじつまが合ってきちゃうのです。正解かどうか、なんてわかりませんけどね。
死別の仮説はつじあやの『風になる』でも使ってみました。暗くなさそうな曲にこのイメージが、自分の中でときどきぴたりとはまることがあってなんかちょっと、自分の心象風景が心配なんですが(汗)。
RADWIMPS4~おかずのごはん~

RADWIMPS4~おかずのごはん~

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有心論

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(20151123手を加えました)